(文:杉田弘毅)
共同通信社論説委員長の杉田弘毅氏が上梓した『「ポスト・グローバル時代」の地政学』(新潮選書)に、ますます注目が集まっている。長年国際報道の第一線に立ち続けた杉田氏が、「地政学」と「怒り」というキーワードで、現在そして未来の国際社会を読み解いたという労作だ。
杉田氏は1957年生まれ。一橋大学を卒業後共同通信社に入社し、テヘラン支局長、ニューヨーク特派員、ワシントン特派員、ワシントン支局長を務めるなど、豊富な取材経験に裏打ちされた確かな目が、この本の隅々にまで行き届いている。
そんな杉田氏に、この本の狙いについて話を聞いた。
グローバリズムの時代が到来しかけたが
私はこれまで30年、記者として国際情勢の取材を続けてきました。そこで得た結論が、この『「ポスト・グローバル時代」の地政学』で詳細に論じた、「地政学」と人間の「怒り」が相互に作用し合って世界を動かす、新しい時代が到来したという認識です。
ではその地政学とはそもそも何か。これは19世紀後半にヨーロッパで盛んになったもので、地理や地形、自然環境、資源など人間の知恵をもっても変えられない不変の要素を基に、政治や戦略を分析し立案していくというものです。
これ以前の時代は、ヨーロッパ地域におけるグローバルな時代があったわけですね。ハプスブルク家や他の王侯貴族がそうでしたが、国境や民族を超えて通婚し、統治するという形態がありました。
ところが1789年のフランス革命に端を発し、1871年のドイツ統一へと至る中で、いわゆる「国民国家」が出現し、発展してきた。この国民国家が、私の言う「地政学」と人間の「怒り」の両方を生み出すことになります。
まず地政学ですが、国民国家の誕生は、為政者だけでなく国民も、国家戦略を意識するようになります。地理や地形、資源が国力をどう決定し、その中で影響圏をどう拡大して国益の実現を図るのか、という戦略が必要になったわけですね。ただこの段階では、地政学のフィールドは主に「陸」で始まり、やがて「海」をも想定したものに移っていくわけです。
その結果20世紀に入って、人類は2度の世界大戦を経験しました。
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