「ブランド至上主義」が自動車をスポイルしてしまった

 ただそうなった時に、世界の自動車産業全体が大きな弱点を抱えていることがどう表れてくるか。世界的に、自動車という工業製品の中で「良いモノ」を見分け、選ぶこと自体が非常に難しくなっているのだ。

 それは、リーマン・ショック以前の世界バブルの中で自動車産業そのものが変質してきたことによるものだ。分かりやすく言えば、アメリカンエコノミー主導の「ブランド至上主義」が世界の自動車をスポイルしてしまった。

 つまり、「ブランド」というものを、そのイメージが形づくられてきた経緯と特質を掘り下げることなく、消費の動機付けとなる表層だけを言葉にし、吹聴してきた中で、もともとはそれぞれの製品に造り込まれていた技術思想や現実に体感する資質の多くを失ってきたのである。

 その変質、変節は、もちろん直ちに販売量に表れるものではない。しかし数年~10年を経て、ボディブローのように「効いて」くる。日本の小さな市場を見ても、メルセデス・ベンツの凋落、BMWの停滞などは、その「ブランドの崩壊・後退」が表れたものと理解すべきだ。

 そこで「失われた市場・顧客」に目を向け、販売を伸ばしているのがアウディなのだが、彼ら自身のモノづくりがここ数年はイメージ偏重に走り、もともとあった良さが消えてきているだけに、これ以上のシェア拡大は、日本でも世界でも難しいだろう。

 そうした雪崩現象の中から唯一、最新の製品群が「DNAの再発現」を伝えてくるメーカー(ブランド)がフォルクスワーゲンなのである(参考記事「『ゴルフ』に乗る中国人、乗らない日本人」)。同じグループの中であるにもかかわらず、アウディとはだいぶ方向性が異なる。

 そうしたメーカーがもう少し増えてこないと、自動車産業の本質的な再生、進化は難しい。この話は、いずれまた深く掘り下げてみたいと思う。

ランキングの裏の「現実」から目をそむけてはいけない

 再び日本に視線を戻せば、実態の薄い「エコカー」一極集中の歪みはもちろん、欧米の自動車市場の動向と比較してみても、「劇薬」である購入補助金制度を長く続け過ぎたことは明らかだ。「プリウスが販売台数車名別ランキング1位」も、この補助金制度が生み出したものであることは言うまでもない。