90年にはこれらを全て合わせて、「カローラ」ブランドは30万台、「スプリンター」ブランドは11万5690台を販売している。また乗用車としてはカウントされない商用車としてのカローラ/スプリンター・バンも販売されていた。
少し後になると、実際には別の車種と言ってもいい背高多座席ワゴンを「カローラ・スパシオ」と名付けて、同じ「カローラ」という車名の中にカウントされるようにしていたりもした。近年まで、カローラが「車名別ランキング1位」というタイトルを保持し続けた中には、こうしたバリエーションの存在も含まれていたのだった。
このランキングの中で名前が挙がることが「売れている」という評判につながり、また国内営業の実績として残ることが重要と考えられていた時代(実は、つい最近まで)は、他にも様々な「裏技」が使われていたものである。
その中でも強引なものがいわゆる「押し込み登録」と呼ばれるものだ。この自販連の「販売台数」は、実は陸運局で検査登録された、俗に言う「ナンバーが付いた」台数なので、ディーラーが「売れた」ことにして陸運局に持ち込んで登録してしまい、それを「販売台数」としてカウントする、という手法である。
さすがにこれだけ景気が落ち込んでいる中では、販売台数ランキングのためにこの手を使う余裕はないだろうと思っていたら、どうやらそうでもないらしい。プリウスに関して、2010年後半には相当量の「押し込み登録」があり、ナンバーが付いた新車がディーラーのカープール(保管用駐車場)に並んでいる、という確度の高い情報が入ってきたのだ。
中古車オークションやネット上の在庫・価格紹介などで、走行距離が10キロメートル前後とごく短いものは、この「押し込み登録」の対象になった車両と見ていい。
プリウスは、2010年の販売台数ランキングでは圧倒的トップになることが見えていたのに、トヨタ(の国内営業部門)としては何を求めていたのか? かつてカローラが記録した30万台を超える「新記録」を、どうしても達成したかったのだろうか。それとも、エコカー補助金打ち切り後の販売落ち込みを、実績の数字上だけでも緩和したかったのか。
それやこれやで「販売台数の車名別ランキング」の上位に入っていれば、日本国内でそれなりに売れたクルマなのは間違いなく、しかしそのランキングのトップなのか2位なのかにはあまり意味がない、というのが、自動車業界の常識だった。
ハイブリッドへの一極集中は「気分」だけの狂騒状態
しかしプリウスに関しては、単一の車体骨格、単一のパワーパッケージ(エンジンと駆動メカニズムの組み合わせ)で、2009年には20万8900台弱、2010年は30万5700台弱を販売したのであって、これは日本の自動車販売史上でも稀有の事例と言っていい。
だが、いつの時代も「大量に売れたクルマ」が必ずしも「工業製品として優れたもの」ではなく、さらには「移動空間という自動車の本質において優れたもの」でもない。そういう「大衆の選択」が日本ではずっと続いてきている。
それは、ニュースメディアが垂れ流す情報に始まり、社会全体として工業製品や科学技術を「読み解く」資質がいまだに育っていないことを示すものだ。私もその責任を負う立場の隅にいるわけだが。
とりわけ今回のプリウスへ、そしてハイブリッド車への「一極集中」型の消費は、正確な情報と現実認識を欠いたまま社会全体が「気分」だけで突っ走っている狂騒状態に他ならない。