ラグビーエリートがぶつかった壁
先日、平昌オリンピックが幕を閉じました。日本は、冬季オリンピック史上最多記録を更新するメダル13個を獲得しました。いまだに余韻は続き、現在、マスコミに引っ張りだこの選手たち。おそらく今後メダリストを中心に、自伝など関連本が数多く出版され、書店の店頭を賑わすことでしょう。2020年の東京オリンピックを前に、いいはずみになりました。
そして、その前年に行われるラグビーワールドカップ2019。こちらは私の地元の釜石でも試合が組まれていることもあり、楽しみにしています。ただ、もう少し関連本が出版され、書店の店頭が充実してもいいようなものですが・・・。
帝京大学が明治大学を破って、前人未到の9連覇を果たした今年の全国大学ラグビーフットボール選手権。相変わらずの帝京大学の強さには舌を巻きましたが、負けた明治大学も古豪復活を印象づけました。その歴史ある明治大学ラグビー部。数多くの名プレイヤーを生み出してきましたが、ミスター明治と言えば、少なくても私の年代ではウィングの吉田義人選手を挙げる人が多いはずです。『矜持 すべてはラグビーのために』(吉田義人著、ホーム社)は、その吉田氏の自伝です。
ラグビーに目覚めた幼少時代から、入学直後からレギュラーを張った秋田工業高校時代、さらに新人から試合に出続けた明治大学時代など、それまで歩んできたラグビー人生が余すことなく綴られています。各年代での日本代表にも選ばれ、二度もワールドカップに出場し、日本初のプロ選手としてフランスでもプレーし、さらに母校の明治大学の監督も務めた著者。エリート街道まっしぐらのように見える彼ですが、その陰では数多くの挫折や壁にぶつかっていたというので驚きです。
それらの陰の部分や、さまざまな試合の裏側、さらに細かいエピソードを生真面目に積み重ねていることから、著者の一本気な性格がうかがい知れます。アスリートや芸能人の著書で、インタビューをまとめたり、代理のライターが執筆したりすることはまれにありますが、本書は間違いなく本人が書き上げたものでしょう。
ラグビーを通じて、著者が得た「矜持」とは、いったい何だったのか。皆さんも、ぜひ本書を手にとっていただき、その「矜持」を受け取っていただきたいと思います。
今回は、スポーツに関するノンフィクションをお薦めしてみました。依然として売り上げが厳しい書店業界。これから続くスポーツのビッグイベントにあやかり、売り上げを伸ばしていきたいものです。
そのための提案をひとつ。2020年に向けてスポーツノンフィクションのジャンルで、文芸の直木賞、芥川賞に該当する賞を設けてみてはいかがでしょうか。今年開催されるサッカーワールドカップに、来年のラグビーワールドカップ。そして東京オリンピック。ビッグイベントで日本選手が活躍すればするほど、関連本は増え、賞レースは盛り上がることでしょう。