とはいえ実際のところは、日本の価格交渉が成功したわけではない。トランプ氏は2016年の大統領選挙期間中から大統領就任後にかけて、「F-35の価格(米軍が調達する価格)は異常に高額すぎる」とロッキード・マーチン社を強く非難していた。そのため2017年初めにメーカー側がF-35の価格を引き下げざるを得なくなったことが反映したものと考えられる。

 トランプ大統領の圧力によって、米軍調達価格は空軍向けF-35Aが9460万ドル、海兵隊向けF-35Bが1億2280万ドル、そして海軍向けF-35Cが1億2180万ドルとなった。日本向けF-35Aを1機あたり157億円から146億円に引き下げても、円ドル為替の影響はあるにしても米国内向け売却価格がおよそ110億円前後であるため、米軍需産業と米政府の取り分はある程度は満足できるとDSCAは判断したのであろう。

アメリカの目的は国益の確保

 アメリカがF-35戦闘機を日本に輸出する目的は、言うまでもなくアメリカの国益を確保するためである。

 ここで「アメリカの国益」というのは、上記のようにFMSという仕組みを通してアメリカ防衛産業の収益を補填し、政府当局自身も手数料収入を得る、という直接的な売却益の確保だけではない。日本が数多くのF-35をはじめとする高額兵器を購入すれば、それらの主要兵器の米軍調達価格を引き下げることも可能になる。

 また、F-35のようなアメリカ製(F-35はアメリカ企業だけでなく多国籍企業が参加しての共同開発制作であったが、ロッキード・マーチン社が主契約者である)の主要兵器を日本に装備させることにより、消耗部品供給(やはり米政府の許可が必要となる)などの局面でも継続して利益を確保できるだけでなく、日本側をコントロールすることもできる(アメリカ側が補充部品の供給を拒むと、自衛隊は運用できなくなる)。

 さらには、自衛隊にアメリカ軍の正式戦闘機であるF-35を装備させることになれば、相互運用性の向上という美名のもとに米軍による自衛隊のコントロールも促進できる。