この論文は世界的に注目を浴びました。なにしろ、

・実績とユニークな言動で業界に知られる望月教授の論文である(今度は何を始めたんだ)

・ABC予想の証明論文である(本当だったら快挙)

・膨大で難解で、同業者にも理解が困難である(何かすごいことが書いてあるのだろうか)

というわけです。まだ査読を受けて学術誌に掲載されたわけではないのに、早速(2012年)、『ネイチャー』にも取り上げられました。

論文がたどった経過

 望月教授のABC予想証明論文は、数理解析研究所の発行する学術誌『Publications of the Research Institute for Mathematical Sciences(PRIMS)』(編集長は望月教授)への投稿論文ということになります。

 通常、論文を受け取った学術雑誌の編集部は、(査読のある学術誌なら)査読者(レフェリー)に読んでもらいます。査読者はその論文の研究分野の研究者から編集部が選び、匿名で査読を行ないます。

 査読の結果、その論文に誤りがなく、掲載する価値があると認められたならば、受理(アクセプト)され、掲載される運びとなります。普通の雑誌記事とは逆に、著者が学術誌に対して数十万円程度の掲載料を支払います。

 あいにく掲載が認められなかった(リジェクトされた)場合、著者は、編集部に再考をうながす、別の雑誌に投稿しなおす、発表を諦める、などの手が残されていますが、いずれにしても精神的に消耗させられます。査読者は自分に悪意を持っているあいつだろうか、などと妄想しちゃいますね。

 査読は数週間程度、長いと数カ月かかるものですが、望月論文の場合は5年という異例の長期間に及びました。

 証明論文で用いられている「宇宙際タイヒミュラー理論」は、望月教授が20年以上取り組んで、ほぼ独力で構築してきた理論です。論文には多くの新しい用語や定義がちりばめられ、専門家にとっても理解するのに相当な努力が必要です。