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(文:鰐部 祥平)

パリのすてきなおじさん
作者:金井 真紀
出版社:柏書房
発売日:2017-10-24

 老いは避けられない。どうせ老いるなら若い人に「素敵なおじさん」と呼ばれたいものだ。おじさんが何歳からなのか、はっきりした定義はないだろうが、30歳からをおじさんと呼ぶのなら、私はおじさん歴9年になる。そろそろ、おじさんも板についてきた頃だろう。しかしいまだに素敵なおじさんが、どんなものなのかトンとわからない。おじさんのサンプル集でもあればと思っていたら、出てきたのだ。私の思いに答える一冊が。いやー、世の中、いろんな物があるものだ。

 本書の著者でイラストレーターである金井真紀は、おじさんコレクターを自認するほどのおじさん好き。伊丹十三の「おじさんこそが両親が押し付けてくる価値観に風穴を開けてくれる存在だ」という趣旨の言葉を引用しつつこう語る

“私はとりわけ風穴を欲するタイプだったのだろう。「このおじさんの話をきいたらおもしろそう」という勘がよくはたらいた。経験を積めば積むほど、「選おじさん眼」は磨かれた。気づいたら私は無類のおじさんコレクターになっていた。”

 おじさんコレクターって・・・。

 一歩間違えば猟奇事件である。そんな著者がパリ在住のジャーナリスト、広岡裕児と鴨鍋をつつきながら語らっている際に「ひらめいたパリのおじさんを集めよう」と思い付き、実現したのが本書だ。

哀愁に満ちた香り

 パリで見つけたおじさんたち、一人ひとりに数ページが割かれている。文章のほかに金井真紀の味わい深いおじさんのイラストが添えられており、さながら大人の絵本を読むように、さらりと読むことができる。酸いも甘いも知り尽くしたおじさんたち。しかも、移民が多いパリのおじさんたちだ。人種も宗教もバラバラ。ただの絵本調の本で収まるはずがない。鼻孔の奥をくすぐる哀愁に満ちた香りが本書全体を包んでいるのである。