(文:仲野 徹)
科学者というのは、データを出すことが最も重要である。それに次いで、いや、それと同じくらい重要なのがデータを解釈することである。ライフネット生命創業者の出口治明さんが、物事を決める時に重要、と、おっしゃるところの「数字、ファクト、ロジック」は、科学者にとっての根幹でもある。
経済にはまったく疎い。なので、この二冊の本に書いてあることが真実なのかどうか、正しく判断する術を持たない。しかし、示されているデータを見て、その解釈を読んでいると、真実であるとしか思えない。一方で、アベノミクスはうまくいっていると喧伝されることも多い。まさか全くのウソではあるまい、という気もする。素人は悲しからずや。いったいどちらが正しいのかがわからない。
作者:明石 順平
出版社:集英社インターナショナル
発売日:2017-10-06
『アベノミクスによろしく』から紹介したい。モノシリンさんが太郎くんに説明するという、ややベタな形式で論が進められていく。しかし、豊富なデータが示されていて、説明はわかりやすい。第1章『アベノミクスとは何か』で、その概略が説明される。第2章では『マネーストックは増えたか』として、異次元金融緩和でマネタリーベースは増えたが、マネーストックは増加ペースが変わらなかったことを説明してある。これは、野口悠紀雄の本でもかなり強調されている。いまいち意味がよくわかってないのだが、きっととても大事なことなのだ。
第3章『国内実質消費は戦後最悪の下落率を記録』は、素人にもわかりやすい(図1)。下落の一途をたどっていた名目賃金指数は2012年頃から横ばいあるいはやや上昇している。しかし、消費者物価指数が上昇に転じているために、実質賃金指数は、それ以前と同じペースで下がりつづけている。図を見ればあきらかだ。なんとなく景気がよくなった感じがしないのはこのせいか。