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(文:麻木 久仁子)

レッド・プラトーン 14時間の死闘
作者:クリントン ロメシャ 翻訳:伏見 威蕃
出版社:早川書房
発売日:2017-10-18

 9.11後、アフガニスタンに派兵したアメリカは、パキスタンとの国境地帯で反乱の急増に悩まされていた。そこで2006年夏、この急峻な山地帯に前線基地を点々と連ねて敵の補給線を分断するとともに、現地の村人には不足している物資を供給し人心を勝ち取るという作戦を立てた。これにより谷間の川沿いにくねくねと伸びている狭隘な道沿いに十数箇所の前哨基地が作られていった。奥へ奥へと進んでいった最後の前哨が「キーティング」と呼ばれる場所だ。だがこの前哨はとんでもない代物だった。

 四方を切り立った山に囲まれている。斜面には花崗岩の露頭が点々とあり、木々は生いしげり、敵は隠れ放題だ。一方そこから見下ろされる「キーティング」の中にはほとんど隠れる場所がない。ヘリコプターの降着地帯は川を隔てたところにあり、橋を渡らなければ行かれない。最も近い米軍基地から車両でこようと思えば一本しかない4メートルにも満たない幅の道路を6時間も走らなければならない。

 遠く孤立し、無防備で、最悪な場所。いざとなれば大規模な航空部隊の支援がなければ自力ではどうにもならないところ。古今東西の兵法にまったく反している前哨だった。
ここに送り込まれた「レッド」の面々は前哨を一目見て愕然とする。

“これじゃ金魚鉢のなかにいるみたいだ”

“俺たちのやっていることが、敵にすべて丸見えだ”

“「死の罠だ」”

 本書はこの欠陥だらけの前哨・キーティングが、2009年10月3日の早朝、タリバンの総攻撃を受けてからの14時間の出来事を、分単位、ときに秒単位で克明に記述したものだ。レッド小隊のチームリーダーの一人だった作者のクリントン・ロメシャが、退役後、生き残った兵たちをひとりひとり訪ね歩いて前哨内のどこでなにが起こっていたかをつぶさに聞き出し、あるいはまた無線交信の書き起こしなど軍の正式報告書の資料も駆使して書かれた「戦闘の真実」である。