(文:竹田いさみ)
イギリスの秘密工作員「ジェームズ・ボンド」が活躍するスパイ映画は、世界中のファンを魅了してやまない。ジェームズ・ボンドに与えられたID番号が007であることは、あまりにも有名だ。第1作目の『007ドクター・ノオ』が1962年に公開(邦題は『007は殺しの番号』、日本公開は1963年)されて以来、この55年間で007シリーズ映画として24作が公開された。次回作は『ボンド25』のタイトルで、2年後の2019年11月8日にアメリカでの公開が決まっている。
初期の007シリーズ映画は、原作者のイアン・フレミングが執筆した小説を映画化したものだが、なかには小説からヒントを得て脚本が執筆されるなど、小説がそのまま映画化された訳ではない作品もある。主人公のジェームズ・ボンドや登場人物のキャラクター、さらにはスパイが戦う対決の構図、舞台も、映画製作時点での現実の世界情勢を反映して刻々と変化していった。その中で秘密工作員の名前であるジェームズ・ボンドは変化することなく、使用されている。
ジェームズ・ボンドが勤務するイギリス秘密諜報機関(SIS=Secret Intelligence Service)に、MI6(Military Intelligence 6)の呼称を使い、長官を「M」、装備担当責任者を「Q」、そして長官「M」の秘書を「マネーペニー」と呼ぶことも一貫して同じだ。逆に言えばイアン・フレミングの原作から変化することなく継承されているのは、主人公ジェームズ・ボンド、MI6、M、Q、マネーペニーなどの名称のみということになる。原作者フレミングがもっともこだわったネーミングが、今でも継承されている。
時代の変化と共に、観客の好みも大きく変わるわけで、『007ジェームズ・ボンド』のメインタイトルは同じでも、同じスパイ映画とは思えないほどコンテンツは多様化し、時代の変化に対応している。だからこそ多くの観客を動員でき、ロングセラーを記録できるのだ。
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