「トランプショック」と言われたTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の米国離脱宣言で、最もショックを受けたのは、TPPで多大な恩恵を受けるとされたベトナムだった。
そのドナルド・トランプ米大統領が10日から、ベトナム入りする。
TPP離脱後のアジアへの関与やインド太平洋戦略を表明するとされるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議(ダナン市)への出席、さらには11日、チャン・ダイ・クアン国家主席ら指導部と会談(ハノイ市)する。
国運を懸けた千載一遇のチャンスを潰され、腸が煮えくり返るところだが、ベトナムは満面の笑みで、トランプ大統領を熱烈歓迎する。その裏側には、すでにポストTPP時代を見据えたベトナム流の強かな貿易、外交戦略が見え隠れする。
中国はベトナムに太刀打ちできない
今年5月末、ベトナムのフック首相は、ホワイトハウスでトランプ大統領と早々に初の首脳会談を行った。東南アジア諸国の首脳としては、初めてのホワイトハウス入りだった。
トランプ大統領は、「ベトナムは米国に数十億ドルもの大変大規模な注文をしてくれた。米国にとっての雇用創出だ」と上機嫌だった。
実はこの訪問で、ベトナムは、ゼネラル・エレクトリック(GE)と航空機のエンジン、発電設備などで、総額約56億ドル(1ドル=約114円、以下同)の契約を締結したのみならず、キャタピラーとも、ベトナム国内の100以上の発電機向けに発電機管理技術の提供を受けることなどで合意した。
さらに、関係者によると、たった数日間の訪米中に、米国製機器の輸入案件などの分野で、総額150億ドル規模の契約を締結し、中国の軍事増強に対抗しサーブやユーロファイターなどと交渉するなど、特に空軍で米国製装備の近代化拡大を急ピッチで進める中、「ベトナムが米国に新たな防衛設備の提供を要請した」(米政府筋)とも言われている。
そんなベトナムをトランプ大統領は、「包括的パートナー」と強調する。