理由は2つある。第1に、リンクルージョンとMJI、それぞれのビジネスにとって新媒体がどのような意味を持つのかが明確であり、手応えを感じたこと。

 そして第2に、より大きな理由として、情報を必要としている人々に着実に届くメディアになると思ったことだ。

 経済の急速な発展に伴い情報が氾らんする都市部とは対照的に、農村部ではいまだに情報にアクセスできない人々が多い。さらに、この国のメディアの在り方や情報伝達にも改善の必要があると感じていた北角さん。

 「情報格差が広がりつつあるこの国で、人々に真に必要な情報をしっかり伝えられる存在になりたい」という自身の目標に近づく上でも、この構想には共感する部分が大きかった。

 8月上旬、黒柳さん、加藤さん、北角さんが顔をそろえ、改めて新媒体の創刊を誓った。タイトルには、「マンゴーの実のように人々の暮らしに身近なメディアでありたい」との願いを込めた。

 とはいえ、制作体制については、3人とも「日本人は仕組みづくりに徹する」という意見で一致していた。人々がどんな情報を望んでいるかや、載せる内容の良し悪しは、この国の人にこの国の感覚で判断してもらうしかない、というのがその理由だ。

 そこで編集長の大役を任されたのが、冒頭のアウン青年だ。

 普段は加藤さんの指揮下でMJIのマイクロファイナンス事業に携っているが、それ以前はフリーペーパーを編集していた経験を買われての抜擢だった。

 こうして、いよいよ創刊に向けた議論が始まった。もっとも、皆、本業を別に抱えながらのプロジェクトだということもあり、会議一つ設定するのも至難の業。全員の予定が合うことはほとんどなく、スカイプやオンライン上で話を詰めることもしばしばだった。

 コンテンツについては、マイクロファイナンスの顧客を読者に想定する以上、金融について正しい知識を伝える記事や、「マイクロファイナンスを利用してこんな事業に成功した」というサクセスストーリーは不可欠だった。

 さらに、暮らしに役立つ情報も幅広く入れようという方針の下で、アイデアは尽きなかった。

 とはいえ、すべての記事をゼロから取材して書くのは現実的ではない。そこで注目したのが、この国で活動するNGOだ。彼らが支援している人々はMango!の読者層とも重なるため、彼らが普段の活動で配布している啓発用のリーフレットをMango!の誌面に活用できないかと考えたのだ。