「私たちは、公衆衛生や畜産の専門家ではありません。各分野のNGOと連携すれば、記事の制作時間を短縮でき、中身も充実すると考えました」とアウン青年は振り返る。
幸い、NGOの賛同も得られ誌面づくりがスタート。印刷所や用紙の選定を経て今年1月末に発刊された創刊準備号4500部は、2月から無料で配布されている。
BOPペナルティーの解消を
経済ピラミッドの底辺に位置する人々を指すBOP(Base of the Pyramid)という言葉が注目を集めるようになって久しい。発端となったのは、米国の経済学者C.K.プラハラードの著書『ネクストマーケット』だ。
これまで市場経済から排除されてきた貧困層、特に1日2ドル未満で生活する人々を新たな消費者と捉えることでビジネスチャンスが生まれ、未開の市場を切り開けると主張した同書が2005年に出版されると、彼らをターゲットとしたBOPビジネスに世界中が沸いた。
BOP層は、余計な生活コストを強いられたり、さまざまなアクセスを制限されたりして、貧困の連鎖に陥りやすいと言われる。いわゆる「BOPペナルティー」だ。
例えば、食料品や生活用品を村まで運搬する物流コストが価格に上乗せされたり、大量に購入できないため割高になったり、都市部まで余計な交通費をかけなければ公的なサービスを受けられなかったりする不利益を指す。
情報伝達の面でも、BOP層が住むエリアはネットインフラが整っていなかったり、新聞や雑誌を入手しづらかったりして、都市部との情報格差が深刻だ。
実際、コームー村でも、ダウンタウンではあちこちで目にする新聞スタンドや、道端に書籍を並べた露天商をまったく見かけない。印刷物がない状況を目の当たりにした北角さんは、「Mango!の意義をますます実感した」とつぶやいた。
創刊準備号の配布から1カ月が経った3月上旬、マイクロファイナンスの顧客57人を対象に実施された読後アンケートの集計結果がまとまった。
それによると、サクセスストーリーがよく読まれ、好評であったのに対し、金融教育については、約2割が「読んでない」と回答。公衆衛生の記事は、「面白い」という声が多かった一方で、「読んでいない」と答えた人も2割を超えた。
日常的に活字に接する機会がない人々に対して、一見、難解なイメージを持たれがちな話題をいかに分かりやすく伝えるか。今回の結果を今後の誌面にどう反映していくか。そして、制作費をまかなえるだけの広告出稿者をいかに獲得していくか――。
5月の本格創刊に向け、休んでいるひまはない(本格創刊号は6月1日、4万部発行されました。この記事は4月に書かれました=編集部注)。
情報にアクセスできない人々に情報を届ける、メディアの本懐とも言うべきMango!の誕生によって、この国にどんな化学反応が起きるのか、目が離せない。
(つづく)