選挙期間中、数々の暴言で物議をかもしながらも、ドナルド・トランプ次期米国大統領が、重ねてきた主張の大きな柱が、米国メキシコ国境に壁を築くというものだった。
反対意見は根強いものの、支持も多いこの「公約」について、当選早々、放送されたテレビインタビューで、一部フェンスのような簡易建造物とする可能性も示唆したが、一部地域は壁を造る方がいい、とも語った。
現実には、ドローンを使ったバーチャルな壁、という声も聞かれるが、これまで使われてきたものは、その有効性に疑問符がつく、とも言われている。
壁の建設費はメキシコに負担させるとも語っていたが、8月のエンリケ・ペニャ・ニエト・メキシコ大統領との会談では、その話は出なかった・・・。
国境の街、エルパソ
メキシコとの国境の街、テキサス州エルパソ。
新居に引っ越してきたチャーリーは、妻の親友の夫キャットの勤務する国境警備隊で働くことになった。
一方、リオ・グランデ川をはさみエルパソと接するメキシコの街シウダー・フアレスには、大地震で夫を失い、乳飲み子を抱えたマリアが、グアテマラからの苦難の旅の末、ようやく到着する。
「フェンスがあっても、3マイルおきに穴があり、形ばかりさ」と語る警備隊員。朝、密入国して、夜、メキシコへと帰っていく日雇い労働者。
チャーリーは、勤務初日、川沿いにフェンスが立つ道を車で走りながら、国境の現実を見た。夜には、不法入国者が検挙される現場にも立ち会った。そのうえ、問題の起きた現場へと急行したチャーリーに同行した隊員が殺されるという体験までしてしまう。
前職のロサンゼルスの警察でも、不法就労者の検挙をしていたチャーリーは片言のスペイン語がしゃべれる。川の対岸で見かけたマリアにもやさしく声をかけた。
キャットが不法入国者を利用し、裏で稼いでいることを知ったチャーリーは、仲間入りの誘いを断った。しかし、妻が浪費を重ねる現実を前に、心変わりし・・・。
そんなチャーリーをジャック・ニコルソンが演じる『ボーダー』(1982)は、壁一つで人生が変わる現実、経済弱者としての立場に甘んじざるをえない人々の厳しい現実を見せつける。
しかし、その製作は35年前。中南米からの不法移民問題が、今に始まったことではないこと、そして、今も変わらぬことを再認識させる。