斬新な映像と印象的な音楽で一世を風靡した『男と女』(1966)から半世紀。クロード・ルルーシュ監督の最新作『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』(2015)が劇場公開中である。
音楽を担当するのは、『男と女』以来の名コンビ、フランシス・レイ。いまや「アラエイト」となった2人である。
『パリのめぐり逢い』(1967)『白い恋人たち』(1968)『あの愛をふたたび』(1969)『流れ者』(1970)・・・。その甘美なメロディを聞けば様々なシーンが蘇る。
1960年代後半、フランス・ギャル、シルヴィー・ヴァルタンなどのフレンチポップス、ポール・モーリア、レーモン・ルフェーブルといったフレンチ・ムード・オーケストラが人気だった日本のラジオでレイの映画音楽が聴かれぬ日はなかった。
インドを舞台とした男と女の物語
ルルーシュの作品には、たびたび映画人や音楽家が登場する。『アンナとアントワーヌ』の主人公も映画音楽の作曲家。長く映画を見てきた者なら『あの愛をふたたび』(1969)と重なるところが多いことに気づくだろう。
主演の2人のアイデアに乗る形で、ジャン・ポール・ベルモンド演じる映画音楽作曲家と女優とのロケ先米国での「アバンチュール」を綴った自作を下敷きに、近年魅せられている地、インドを舞台とした「男と女」の物語をつくり上げたのだ。
相手は女優から大使館夫人となり、舞台もラスベガス、モニュメントバレー、ニューオーリンズでのあけっぴろげなダブル不倫行から、ヒンドゥー教の聖地バラナシから南インド、ケララ州への癒しを求める旅へと変わり、スピリチュアルな要素、転生といった言葉も聞かれる作品となった。
ラフマニノフの音楽にのせ第2次世界大戦中のユダヤ人一家の苦難を描く『遠い日の家族』(1985)でも、ルルーシュは「生まれ変わり」を1つのテーマとしている。
同一俳優が複数の役柄を演じる多世代にわたる物語も多い。重層的に物語が展開し、時空を超えたシークエンスや夢、回想が交錯する映像は特徴的だ。
ユダヤ人やフランスの歴史もよく描かれる。厳密な意味では違ってもリメイクのようなプロットも少なくない。ルルーシュ作品には、デジャヴの感覚がつきまとう。