「米国を再建し、アメリカン・ドリームをリニューアル、自分の可能性を追求するチャンスがあり、忘れられた人々のない世界に」
「Make America Great Again」「America First」と訴え、過激な発言を繰り返してきたドナルド・トランプ候補が次期米国大統領当確となった11月9日未明、勝利演説を行った。
今回、勝敗を大きく左右したのが、かつて重工業や製造業が集中した、中西部から北東部あたりの「ラストベルト(Rust Belt)」(Rustは金属の錆の意)での勝利。経済不振で雇用と人口の減少に悩む、民主党色の濃かった多くの地域で、トランプ票が予想を覆す伸びを見せたのである。
ペンシルベニア州ピッツバーグの荒廃した製鉄所跡。
ピッツバーグの幻想
アミューズメントパーク建設計画をおし進めていた日本人実業家が重傷を負っている姿で発見される。1人の労働者が自首、正当防衛だと言うが、行方不明となっていた実業家の米国人妻が、その男との関係を告白する電話を警察にかけてきて・・・。
「ラストベルト」の名そのものに、錆びつき廃墟と化した迷路のような製鉄所を舞台に、芥川龍之介の「藪の中」をベースとした愛憎劇が展開される『アイアン・メイズ ピッツバーグの幻想』は、その地の沈んだ空気が感じ取れる1991年の作品。
鉄鋼の街として栄華を極めたUSスチールのおひざ元だったピッツバーグ。かつての栄光を、日本人実業家に語る地元民の姿が、落差を際立たせる。
この作品の背景には、製作当時政治問題となっていた日米貿易摩擦がある。人々の怒りの対象は日本である。
ピッツバーグは、すでに、ハイテク産業と教育施設の都市に再生されているが、製造業の雇用が減り、いまも深刻な経済不振にあえぐ地は数多く、建物の廃屋化、犯罪の多発などに悩み続けている。
今日(こんにち)、米国民の非難の矛先はグローバリズムに向けられ、中間層が縮小、広がるばかりの格差への絶望感も強い。富は一部のエリートが独占、政治とも癒着していると考え、ヒラリー・クリントン候補は、特権階級の既得権益を守る側の象徴とも言われた。
トランプ候補がたびたび口にしていた「特権階級の資本主義」に置き去りにされた者たちの怒りが、既存の政治を信じられない人々の将来を大胆に「Change」してくれるのではとの期待が、「トランプ現象」を支えた。もはや、多くの人が、「アメリカン・ドリーム」さえ持てなくなっているのだろうか・・・。