「悪夢」「ブレクジットよりひどい」 トランプ氏当選、世界に衝撃

米ニューヨークで、米大統領選の開票結果に落胆した様子を見せるヒラリー・クリントン氏の支持者(2016年11月8日撮影)〔AFPBB News

 次期米国大統領はドナルド・トランプ候補に決まった。

 投票前はヒラリー・クリントン候補有利が伝えられており、英国のEU離脱の国民投票の例もあるとはいえ、地図が次々と共和党の「Red(赤)」で塗られ、民主党の「Blue(青)」が伸び悩む開票速報を見ながら、つくづく、選挙は蓋を開けてみなければ分からない、と感じた1日だった。

 もちろん、確実に票を読める地域もある。伝統的に共和党は非都会・農業地帯に強く、民主党は都会・工業地帯に地盤をもつ傾向があり、それぞれ伝統的な「Red State(赤い州)」「Blue State(青い州)」と言える地域を持っているからだ。

 だから、命運を握るのは、残る接戦州「Swing State(揺れ動く州)」となる。

 時代とともに多少変動はあるが、今回も、フロリダ、コロラド、アイオワ、ミシガン、ネバダ、ニューハンプシャー、ノースカロライナ、オハイオ、ペンシルバニアあたりを、投票前、各種メディアは挙げていた。

半分の給料で2倍働くメキシコ人

 大統領を決める最後の1票を握ることになったぐうたら男を巡る物語『チョイス!』(2008/日本劇場未公開)の原題は「Swing Vote」(浮動票)。

 南西部、ニューメキシコ州架空の都市「Texico(テキシコ)」で、娘モリーと暮らす飲んだくれの主人公バドをケヴィン・コスナーが演じるコメディである。

 バドが働く工場は、メキシコ人労働者だらけで、社内放送からもスペイン語が聞こえてくる。

 「彼らは半分の給料で2倍働くからな」とぼやく同僚。「苦労も2倍してるさ」と答えるバド。同僚は「どっちの味方なんだ」と切り返す。

 そんなバドは、日頃の勤務態度不良がたたり、解雇されてしまう。

 その日は大統領選投票日だった。酒場で酒をあおっていたバドは、リポートのテーマにしているモリーから、絶対投票するよう言われていたことを思い出し、慌てて投票所に向かうが、頭をぶつけ気を失ってしまう。

 いつまで経ってもやって来ないバドに業をにやしたモリーは、投票所が閉まる直前、代わりに投票してしまう。

 選挙は史上まれに見る激戦となった。テレビキャスターは「2000年の再来」と叫んでいる。開票が遅れるニューメキシコ州の結果次第となった。

 そんななか、バドの票が無効となり、再投票することに。そして、その1票が大統領を決めるものとなってしまう。

 政治的信条など何もないのに、調子に乗って、様々な問題についてメディアにコメントするバド。その発言に振り回される大統領候補たち・・・。

 「Swing State」として、毎度メディアが注目する大票田のフロリダではなく、選挙人数「5」のニューメキシコを、映画は舞台に選んだ。

 今回の投票前、メディアによって「Blue State」とするものも「Swing State」とするものもあったニューメキシコ。実際には、早々にBlueに染まる結果となったのだが、この州の色を決めるものが何なのか、イメージできるだろうか?

 バドの発言にもあるように、南に長いメキシコとの国境線を持つから、移民政策は大きな論点であろう。隣はガチガチのRed、テキサスだ。テキサスもニューメキシコ同様ヒスパニック人口は多いはずだが・・・。

 日本人にとって、米国大統領選は分かりにくい、とよく言われる。そもそも、大統領を選ぶという経験がないうえに、予備選から続く長丁場であり、有権者登録や選挙人制度などのシステムもよく分からない、との声も聞こえてくる。

 しかし、その実、6つのタイムゾーンがあるほど広い国土に50もの独自の背景を持つ州(+特別区といくつかの海外領)があるなか、歴史風土はもとより、その位置さえ思い浮かばないところも少なくない、というのが現実ではないだろうか。

 そんな州が連邦制をとり、州政府の立場は日本の都道府県とは比較にならないほど強いのが「アメリカ合衆国」なのである。

 衰え気味とはいえまだまだ世界一の強国であるこの国を理解するためには、それぞれの州や地域に独特の歴史風土を知ることが重要だ。それには、風土を感じ取れる歴史の舞台を旅するのが一番・・・。