稀代のカリスマ性を備えたボーカリスト、フレディ・マーキュリーが逝って25年。シングル、アルバム総売り上げが3億枚を超えるスーパーグループ、クイーンが31年ぶりに日本武道館公演を行った。
「Killer Queen」「Under pressure」「Another one bites the dust」「Bohemian rhapsody」「Radio Ga-Ga」・・・そしてアンコール「We will rock you」「We are the champions」。
ギターのブライアン・メイ、ドラムスのロジャー・テイラー、オリジナルメンバー2人とともに、ヒットナンバーの数々を歌い上げるのはアダム・ランバート。
TVオーディション番組「アメリカン・アイドル」シーズン8の準優勝者であるアダムは、ブライアンとロジャーがゲスト出演した時の共演が縁で、ソロ活動の傍ら、コラボレーションバンド「クイーン+アダム・ランバート」での活動を続ける番組出場者史上最も稼いだアーティストである。
アラブ圏の大スター
現在劇場公開中の『歌声にのった少年』(2015)の英題は「The Idol」。アダム同様、TVオーディション番組から名声を勝ち取ったアラブ圏の大スター、ムハンマド・アッサーフの成功への道のりを描いた作品である。
物語はパレスチナ、ガザ地区に始まる。
姉とともに「スターになって世界を変える」ことを夢見、バンドを組んだ少年時代。「女の子が音楽をやるなんて」と人々から言われても、音楽への情熱を持ち続けた姉は病魔に侵されてしまう。
成人となり、瓦礫の山となったガザ地区の現実のなか、希望を持てずにいたムハンマドは、あるきっかけから、エジプト、カイロで行われる「アラブ・アイドル」予選会出場を決意する。そして、様々な壁を乗り越え、ついに栄光を手にする・・・。
「国連パレスチナ難民救済事業機関青年大使」も務める現役のスーパースター誕生物語であり、仲の良かった姉の夢を実現する感動の物語でもあるこの映画の監督は、パレスチナ人の厳しい現実を描いた『パラダイス・ナウ』(2005)『オマールの壁』(2013)2本のアカデミー賞外国語映画賞候補作を手がけたハニ・アブ・アサド。
戦火が現在進行形のガザ地区で撮影された作品では、イスラム主義のハマスが実効支配するこの地に閉じ込められたまま、自治政府の実質的首都ラマッラーなどヨルダン川西岸にさえ行けない、「大きな監獄」と表現されることもあるガザ地区の現実も垣間見られる。
普段、あまり接することのないアラブのポピュラー音楽が聴けることも大きな魅力である。アッサーフが歌うオリジナル曲、パレスチナでは誰もが知る曲など、アラブ音楽独特のメロディとリズムが堪能できる。
ラスト近く映し出される「アラブ・アイドル」の映像も見どころである。