「ポスト・スマホ」で電気自動車に
フォーミュラEは電気自動車の実験場である。自動車メーカー以外にも、米半導体大手のクアルコムは、レースカーを先導するオフィシャルカー(独BMWが市販している電気自動車)向けに、無線充電装置を提供している。
この装置を使えば、わざわざプラグを差し込まなくても、駐車場に止めておくだけで簡単に充電できる。「ショッピングセンターで買い物をしている間に駐車場で充電完了」という未来は、すぐそこまで来ている。スマートフォン向け半導体で世界を制したクアルコムは明らかに「ポスト・スマホ」で電気自動車に照準を合わせている。
フォルクスワーゲンなどの欧州メーカーは、概ね2020年までに量産ベースでガソリン車並みの価格の電気自動車を投入する計画。ドイツ政府が打ち出した2030年までの脱内燃機関は、かなりアグレッシブな目標だが、決して絵に描いた餅ではない。
強力に支援する米政府
米国の脱内燃機関を牽引するのが、天才経営者イーロン・マスク率いるテスラだ。同社の現行モデルの価格は7万ドル(約700万円)超とかなり高いが、2017年中にもガソリン車に対抗できる3万5000ドルの「モデル3」を発売する。
今年春に予約の受付を開始したところ、すでに50万台の申し込みがあった。テスラの場合、1000ドルの予約金を支払う必要があるので、発売前からテスラは500億円を超える資金を手にしたことになる。モデル3への期待感がいかに高いかが分かるだろう。
モデル3の価格が下がるのは、電気自動車の中で最も高価部品である電池の値段が下がるからだ。テスラはパナソニックと共同で、総額5000億円を投じ米ネバダ州に「ギガファクトリー」と呼ぶ巨大電池工場を建設した。ここから安価で高性能な電池が供給されるのだ。
「温暖化を防ぐため、地球上からガソリン車を消し去る」と豪語するマスク氏はこのほど、米太陽光発電ベンチャーのソーラーシティを26億ドルで買収した。家庭やオフィスにソーラーパネルと蓄電池を行き渡らせ、「太陽光で作った電気で電気自動車を走らせる」というゼロ・エミッション(排出ガスゼロ)の車社会を構築すべく爆走している。
マスク氏が先ごろ発表した「マスタープラン」には、今後数年間で電動のピックアップトラックや小型SUV(スポーツ用多目的車)、大型の長距離輸送用トラック、バス型車両を発売する計画も盛り込まれている。
マスク氏が掲げる理想はとてつもなく高いが、株式市場は「実現可能」と見ている。テスラの株価が過去5年で5倍に跳ね上がっているのがその証拠だ。
しかも、米政府はこうした動きを強力に支援している。米カリフォルニア州では来年からハイブリッド車が「エコカー」の分類から外され、これまで受けてきた手厚い税制面での優遇制度を受けられなくなる。
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