前回述べたように、21世紀に世界が食糧危機に見舞われる危険性は極めて低い。
しかし、そう説明しても、それでも将来の食料輸入を心配する声がある。多くの人は、次のような事態を心配しているようだ。
(1)世界的な食糧危機は起きなくとも、輸出国が不作になった際に、自国への供給を優先して売ってくれなくなる。
(2)食料は生きてゆくのに欠かせないものであるから、その禁輸をちらつかされて、政治的な譲歩を迫られる。
(3)少子高齢化が進行する中で経済が疲弊し、外貨がなくなり、食料を輸入したくとも輸入できなくなる。
(4)日本が戦争をしなくとも、国籍不明の潜水艦によって海上封鎖されて、食料の輸入が途絶する。
食料を自給した方がよいと考える理由は、以上の4つに集約することができよう。
これはリスク管理の問題である。リスクをゼロにすることはできないが、自給率の向上に多額の費用を要することを考えれば、リスクを冷静に見つめた上で、向上させるべきかどうかを判断すべきであろう。リスク評価も行わずに、恐れがあるからと言って、闇雲に自給率の向上を主張すべきではない。
今回は、以上に挙げた4つのリスクがどの程度のものなのか考えてみたい。
不作時に食料輸出を禁じるのはどこの国か
(1)世界的な食糧危機は起きなくとも、輸出国が不作になった際に、自国への供給を優先して売ってくれなくなる。
この可能性を考えるためには、日本がどこから食料を輸入しているかを知る必要がある。
多くの人は、食料をアジアの開発途上国から輸入していると思っているようだ。しかし、それは間違いである。日本は食料を、主に米国、カナダ、ブラジルから輸入している。牛肉はオーストラリアからの輸入が多い。
これらの国は食料輸出大国であり、少しぐらい不作になっても、輸出を継続する力を持っている。米国、カナダからの輸入が多くなっている理由は、高品質のものが安定的に手に入るからだ。少々品質が悪くてもよいのなら、それ以外の国から輸入することも可能である。