NHKのニュースや雑誌のグラビアなどで取り上げられた効果だろうか。
車内に掲示されたままの日本語の路線図や料金表、プリペイドカードのポスターなどを喜々として撮影する彼らの様子を眺めながら、わずか3カ月前のことを思い出していた。
願い乗せて走る電車
雨期が明けたばかりのその日も、広電の車内に座っていた。とは言っても、ストランド通りでは電柱の建設や架線工事がまさに最後の追い込みの真っ最中で、車両はまだ沿線の貨物ヤードの隅に停められていたのだが。
先ほどから、広島電鉄から派遣された技術者がミャンマー国鉄(MR)の職員たちを連れて車両を乗り降りしながら、車輪部分をのぞき込んだり、運転席付近で機器を見ながら話し合っている。
しばらく姿が見えなくなったと思ったら、いつの間にか皆、屋根上にいた。電車特有の設備であるパンタグラフの仕組みを見せていたのだろう。
そんな彼らを一緒に眺めながら、日本コンサルタンツ(JIC)取締役副社長の遠藤隆さんが「この電化計画にはミャンマー国鉄(MR)の強い期待と意欲が込められています」と語り始めた。
2014年12月、あまちゃん列車が運行を開始したのに前後して、「この国になんとかして日本や欧米のような電車を走らせたい」とミャンマー国鉄から相談されたのが始まりだった。
「そのための費用はすべてミャンマー国鉄が負担するので、日本に全面的な技術指導をお願いしたい」との言葉に驚きながらも、彼らの本気度に感じ入った遠藤さんは、帰国してすぐに日本の国土交通省鉄道局に相談。
全面的な後押しを得たことからトントン拍子に話が進み、年が明けた2015年1月から2月にかけてフィージビリティー調査が実施された。
とはいえ、同年11月に控えていた総選挙をにらみ、「なんとかその前に電車を走らせ国民にアピールしたい」と望む前政権の期待は高く、「時間との競争を強いられた」。最大の課題は車両だった。