(文:村上 浩)
作者:スティーブン・ジョンソン 翻訳:大田直子
出版社:朝日新聞出版
発売日:2016-08-05
体重わずか数グラムのハチドリは、ほとんどの鳥が真似することも困難なホバリングをすることができる。空中の定位置に留まるためには、羽を打ち上げるときも打ち下げるときも揚力を発生さるような、回転可能な羽を進化させる必要がある。
ハチドリがこの独特なデザインの羽を持つようになったのは、花蜜を吸うためであると考えられる。ホバリングは、花蜜を取り出すために威力を発揮し、ハチドリの小さな身体に十分な栄養をもたらすのだ。
ハチドリの羽の進化を促した花蜜は、顕花植物と昆虫の共進化の産物である。花は花粉を昆虫に運んでもらうために色やにおいを進化させ、昆虫は花からより多くの花粉を取り出して他の花に受粉させるような装備を進化させた。この植物と昆虫の共進化の果てに、高密度なエネルギーをもつ花蜜が生まれ、その花蜜を栄養源とするハチドリへと至ったのだ。
著者は、このようなイノベーションの連鎖を「ハチドリ効果」と呼ぶ。これはカオス理論の「バタフライ効果」とは異なる。バタフライ効果による連鎖の因果関係は説明がつかないが、ハチドリ効果の影響はより明確なのである。花蜜の存在は、明らかにハチドリの姿に影響を与えている。花蜜の誕生はハチドリへの進化を約束するものではないが、その可能性を間違いなく切り開いた。