それを踏まえ、本書では、沙世や弓子を絶対的な先生としてではなく、生徒との関係に悩む等身大の姿で描くことで物語にリアリティを出しています。そして沙世を始め、4人の生活が静かにシンクロしたとき、それぞれの日常が動き出します。
自分の弱さを受け止めつつ、果たして、彼女たちは前に進むことができたのでしょうか。仕事や恋愛など人生の岐路に立つ、それぞれの心情を丁寧に描いているため、とても共感しやすい物語です。
力強いメッセージは込められていませんが、読み終えるとまた、明日も頑張ってみようと思えるから不思議です。ぜひ手元に置いて、折に触れ読み返してみてはいかがでしょうか。
この物語のラスト、沙世はいじめに対処しなかった件で、志保美に謝罪しますが、志保美は過去の事として、和解します。志保美は自分の心の傷をしっかりと受け止めながら、明日に向かおうとしていたのでした。
楽しい同窓会のはずが・・・
それに対し、過去の嫌な記憶を自らで消化できなかった男たちの物語が、『仮面同窓会』(雫井脩介・幻冬舎)。
仕事もうまくいかず、冴えない毎日を過ごしていた洋輔。ある日、高校の同窓会に出席し、そこで八真人ら悪友3人と再会し、旧交を温めます。そこでかつての体罰教師・樫村への復讐という悪ふざけた計画を立ててしまい・・・。
高校のマドンナだった美郷に洋輔が偶然出会い、付き合うようになる冒頭や、学生のノリで樫村を痛めつける辺りまでは、軽いタッチで物語も進みます。
しかし、樫村が謎の死を迎えてからは、一転して重い雰囲気に。さらに、八真人のかつての恋人の自殺の真相が拍車を掛けます。
特に読者をぐいぐい引き寄せるのが、洋輔たち4人の心理描写。彼らは、犯人が掴めないため、お互いに疑心暗鬼になっていきます。友情で結ばれていたはずの彼らが、破滅へ向かうラストは、手に汗を握ることでしょう。
果たして、樫村を殺害したのは誰なのか。著者が幾重にも張り巡らせた伏線もあり、謎が謎を呼ぶ、一級のミステリー小説に仕上がっています。