話は戻って、前述の旧友たちとの飲み会。まさか、自分たちが仕事や家庭、健康の話題で盛り上がるとは、夢にも思っていませんでした。仕事や家庭の話は「大人」がするもので、子どものころは、目の前には真っ白な世界が広がっていました。
いざ、自分があのころ見上げていた「大人」の年齢に差し掛かった現在、果たして精神面は現実に追いついているのだろうか、という不安が常につきまといます。
それでも、久しぶりに旧友たちと飲んだことで、自分の立ち位置が確認でき、あらためてまた日常に向き合える気持ちになれました。
恐らく、チャオにいる面々にとっては「田村」がそのような存在なのでしょう。その「田村」はというと、ページが進むにつれ、ようやく姿を現しますが・・・。
その場にいない人物を中心に据える展開が、物語に深みを与えている本書において、実際に本人が現われるラストに向かう下りには、賛否両論があるかと思います。しかし、それを差し引いても、人生の機敏を見事にすくい取った展開は素晴らしいです。
チャオにいる面々と共に、なかなかやって来ない「田村」にヤキモキしながら、ぜひ自分だけの「田村」を思い浮かべながら読んでみることをお勧めします。
好きな先生、嫌いな先生
ところで、旧友たちとの飲み会になると、必ず話題に上がるのが、それまでお世話になった先生方の思い出話。もう一度会いたい先生がいる一方で、やはり苦手な先生もおり、その暴露大会で盛り上がりました。
誰にでもある先生との関係をモチーフにした小説が、『まっぷたつの先生』(木村紅美・中央公論新社)。
同じハウスメーカーに勤務する建築士の吉井律子と派遣社員の猪俣志保美。年齢も働き方も違う2人でしたが、それぞれの子ども時代、一時的に中村沙世が担任していたという共通点がありました。しかし律子と志保美は、入り組んだ事情から、その共通点には気づいていません。
一方、2人の共通の担任だった沙世は、その後、教師という職業に挫折し、前を向けなくなっていました。その3人に、ベテラン教師の堀部弓子が絡み、物語は進んで行きます。
弓子の教え子でもあった律子は、沙世に好印象を抱いています。逆に、志保美は、沙世には嫌な思い出しか残っていませんでした。
考えてみれば、生徒にとってはたった1人の先生でも、先生から見れば多数の生徒のうちの1人。しかも相性の問題があるので、どの生徒ともうまく接するというのは、実はなかなかハードルの高い事なのかもしれません。