(文:仲野 徹)
作者:ヘンリー・マーシュ、翻訳:栗木 さつき
出版社:NHK出版
発売日:2016-06-23
脳外科医のやり甲斐と厳しさ、イギリスの医療制度のひどさ、マーシュ先生の清々しい生きざま、そして、こういった内容が流れるように綴られる美しい文章。読みながら、さまざまな感慨を込めた溜め息をなんどもついた。素晴らしい本だ。
本書『脳外科医マーシュの告白』はタイトルどおり、イギリスの有名脳外科医・マーシュ先生のエッセイ集である。25のエピソード、それぞれにマーシュ先生の思い出がつまっている。
タイトルの『告白』というほど重苦しい本ではないが、明るく語ることができるような話ばかりでもない。包み隠すことなく語られているが、赤裸々というイメージでもない。淡々と、そして正直に、マーシュ先生の内面が吐露されていく。
傲慢だったマーシュ先生を変えたミス
つらい思い出が多くとも、マーシュ先生は脳外科の仕事を心から愛しておられることがよくわかる。しかし、脳外科医へ至る道筋は紆余曲折に満ちていた。高名な人権派弁護士の父とナチス・ドイツから逃れてきたドイツ人の母との間に生まれたマーシュ少年は、当然のように有名パブリックスクールに進む。しかし、その卒業後2年間は学業を休み、うち1年は西アフリカの僻地で英語を教えるボランティアなどをした。