農薬が嫌われるのは、言うまでもなく毒性の心配であるからでしょう。毒物がかけられた食品を食べて大丈夫だろうか、という心配をしてしまうのは無理もありません。
しかし、知識があればそうした心配が杞憂か、はたまた本当に心配すべきことなのか分かります。さらに、自分たちがいかに「常識」という名の幻想にとらわれてきたのか自覚できることもあります。
そうした幻想の1つは、我々がふだん「無毒の食品を食べている」という誤解です。
ここまで読んで「ちょっと待て! ふだん自分が口にしているものは危険な食品なのか? だったらやっぱり無農薬がいいのか?」と思われた方、もう少しお付き合いください。
タピオカの原料に含まれる毒
以前の記事「植物を作り変える人類を待っていた落とし穴とは?」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46410)では、人間がわざわざ毒を選んでたしなんできたことを書きました。大根おろしやワサビの類は、アリルイソチオシアネートを、からしはカプサイシンを含みますが、その毒物が生みだす辛味を人間は昔から楽しんできたのです。
そんな食べて楽しむ毒物だけではなく、我々が普段食べる食品には量は少ないながらも、いくつもの有毒な天然物質が含まれています。にわかに信じがたい、ひどい例もあります。
アジア・南米・アフリカで広く栽培され、アフリカの一部地域では主食となっている「キャッサバ」という芋があります。日本でもおなじみのタピオカの原料です。このキャッサバ、青酸配糖体(シアン化合物)という文字通り青酸カリの親戚みたいな毒物が大量に含まれているのです*1。
虫などから身を守るために芋自体が毒物をつくって身を守っているわけですが、その量は(キャッサバを主食とする)現地の人の1日分の食べる量で半数致死量の50%に達するといいます*2。
そのため現地では、水にさらす、煮沸するなど毒抜きの処理をしてから食べるわけですが、その処理が不十分で中毒事故がしばしば起こり、足の麻痺や最悪の場合、死に至る事故が多発しています。
また、調理で毒抜きをしても、完全に取り除くことはできません。そのため現地の平均寿命が短い理由はキャッサバを主食にしているからではないかと疑う学者もいます。だからといって、ほかに栽培可能な作物もないので、今もキャッサバが主食になっている地域があるのです。
自然毒は人工毒の1万倍
キャッサバの例は極端ですが、実は我々が食べる作物では実際どれくらい毒物が含まれているのか調べた学者がいます。アメリカの生化学者、ブルース・エイムス(エームス)博士です。