農薬に対する不安はある。しかし現実問題として農薬を使わずに安定した農業生産は難しいだろう・・・。そう考える消費者の中には、減農薬の作物を積極的に求める方がおられます。

 農薬使用量が通常の半分なら、それだけ安全性が高まるのではないかと考えるのは一見合理的に見えます。しかし、こうした考えを持つ方が思ってもいないことが現実に起きています。

 実は、通常の農薬散布をしていても、今は昔よりも減農薬になっているのです。どういうことかというと、農薬の進歩は絶え間なく続いており、有効成分量が減ってきているのです。これは有機化学の進歩によって化学農薬が開発されるようになってきた20世紀初頭から一貫して続いている傾向です。

農薬本体はスリムになっている

 戦前に登録がなされた農薬では10アールあたり散布量が10kgなんてものもざらにあったようですが、新しい農薬が開発されるごとに有効散布量は減り続け、現在では1ヘクタールあたりの有効成分量が10g以下など、極めて少量で効く薬剤も出てきました。

 つまり、80年で1000分の1くらいまで減った計算になります。これは散布回数を減らす努力に意味があるのか疑わしくなるレベルの減り方です。(出典:「日本における農薬の歴史」松中昭一、学会出版センター)

 前々回の記事「史上最悪の農薬は、史上最強の救世主だった」で紹介した、マラリア用殺虫剤においてもこの傾向は顕著です。30~40年前のDDT剤は、有効成分換算で1ヘクタール当たり約2kg使われていましたが、最近の合成ピレスロイド剤ではha当たり約0.1kgと実に20分の1の量まで減っています。(出典:「農薬と安全性」農薬工業会)

 さらに、前回の記事で水田農業用ピレスロイドとして紹介した「シラフルオフェン」を使っている水稲用の粉剤では、3キロ剤で成分含有率はたった0.5%しかありません。つまり、水田10アールあたり3kg×0.005で、みかけは3kg散布していても実際の散布量は10アールあたり15gでしかないのです。

 それでも残留農薬を心配する人もいるでしょう。