「3Dプリンタは、我々の思考、業務、コストの基準、意思決定を根本的に変えるだろう。3Dプリンタの作戦および技術的な可能性は、今まさに爆発的に拡大しようとしている。将来的には、3Dプリンタは海軍および海兵隊の前線、全艦艇および拠点に配備され、オンデマンドで必要な部品や装備品を生産・提供できるようにする」
付き添いの海軍大佐は「そのための新しい契約戦略が必要だ」とも述べたという。
ここで指摘しておきたいのは、これらは長期的な話ではなく近い将来の話だという点だ。実際、F-22ステルス戦闘機のエンジンを製造しているプラット&ホイットニー社副社長のアラン・エプスタインは、「2034年には、全ての艦船および基地に3Dプリンタが配備され、全ての部品を必要に応じて生産し、長大な補給路はほとんど不要になるだろう」「軍の兵站部門が本当に欲しがっているのは、ボタンを押すだけでいろいろな部品が出てくるホームベーカリーのような3Dプリンタだが、その実現までには何十年もかからないだろう」と語っている。しかも、これは米国では「慎重な見解」の部類とされているのである。
米軍がこれほど熱心に3Dプリンタの導入を進める理由
なぜ、米軍はこれほどの熱意をもって3Dプリンタの導入を急速に進めているのだろうか。
第1の理由は、対中・対ロ戦を考える上で非常に重要な技術だからである。
中国やロシアなどは、現代戦では初手においていかに相手のレーダーシステムや通信等の指揮・通信・偵察能力を麻痺・破壊するかがカギだと見なしている。その上で、行動不能になった相手を大量の弾道・巡航ミサイル等で一気に叩きのめす作戦構想を採用している。いわゆる「A2/AD(接近阻止・領域拒否)」戦がそれである。
対する米国は、行動不能になった状態からいかに速やかに回復し、迎撃・反撃するかを軍事上の課題としている。つまり、レーダーや通信システムを即座に前線に再配備・再建し、大量の迎撃なり反撃用のミサイルを展開する方策を探っている。
しかし、これは難しい問題である。それらの装備は高額かつ生産に時間がかかる上、米本土から輸送しなければならないからである。そして、中国・ロシアのA2/ADにより、前線近くの滑走路やシーレーンはずたずたにされているので、運搬も思うようにできない。