まだJリーグも発足しておらず、地上波で毎日のようにジャイアンツ戦が放送されていた私が小学生の頃。現在とは比べものにならないほど、「野球帽」を被っている子どもたちであふれていました。
ほぼジャイアンツの「YG」マークが占めていた校内にあって、私が被っていたのは「H」マーク。
今ではチーム名が消滅してしまった、阪急ブレーブスの帽子です。たまたまテレビ中継で見た、豪快な野球スタイルに魅了され、すっかりファンになってしまいました。校内でその帽子を被っていたのは私だけでしたので、とても目立っていましたが・・・。
「いつの日か来た道」へ降り立つ
ブレーブス(Braves)は、日本語に直すと「勇者たち」。まずはタイトルに惹かれた『勇者たちへの伝言 いつの日か来た道』(増山実著、角川春樹事務所)を。プロ野球のノンフィクションと考えてしまう本書ですが、実は小説です。
兵庫県西宮市に、かつてあった阪急西宮球場。阪急ブレーブスの本拠地でしたが、球団の譲渡や時代の流れで、球場としての役割を終えます。
主人公の工藤正秋は、人生の折り返しを迎えたベテラン放送作家。懐かしさと共に、球場跡地に足を向けた正秋は、ふとしたことから、少年時代にタイムスリップしてしまいます。大人の心のまま、体は子どもに戻った正秋は、なぜか熱気を帯びた西宮球場のスタンドに。
隣には、静かにグランドを見つめる今は亡き父親の姿が・・・。ここから正秋の亡き父親を中心に、さまざまな宿命を抱え、見知らぬ土地で暮らすことを余儀なくされた多くの人びとの人生が交わって、物語は進みます。