「神は乗り越えられる試練しか与えない」という言葉がある。その言葉の真偽の程は不明だが、僕は、絶望的な試練を乗り越えた人間の強さに、惹きつけられてしまうことが多い。その強さからは時に、美しささえ感じることもある。
僕自身の絶望を挙げるとすれば、引きこもっていた時代だ。いろいろな理由から大学を中退し、部屋に閉じこもり、誰とも会わず、誰とも連絡を取らない生活を1年ほど続けた。
ある時死のうと思って、当時住んでいた10階建ての建物の手すりのない屋上に向かい、縁に片足立ちをしてうまいことバランスを崩してそのまま落ちないかな、とやってみたことがある。自分で飛び降りる勇気は、やはりなかったのだ。幸か不幸か、結局落ちることはなく、その後あれこれあって、僕はまた社会に顔を出すようになった。
皆それぞれ、自分なりの絶望を抱えていることだろう。他人からすれば大したことはなくても、本人からすれば捨て去ることができない何かに囚われている人も多いはずだ。だが一方でそんな人間を絶望から引き上げるものも存在する。音楽や言葉や出会いなどのさまざまなものが、人間を絶望の淵から引き上げる。
他者が絶望をどう乗り越えたのか、その物語を知ること。それが、誰かを絶望の淵から救う手立てになることもあるだろう。今回紹介するのは、絶望の傍で奮闘した者たちを描く3作品だ。
“アンダー”から這い上がった乃木坂46
『乃木坂46物語』(篠本634著、集英社)
2015年に紅白出場も果たし、今やアイドルグループとして一番勢いがあると言っても過言ではない乃木坂46。雑誌の表紙で、乃木坂46のメンバーを見ない日はないだろう。結成から4年という短期間で、国民的アイドルグループに上り詰めようとしている彼女たちに、「絶望」という言葉はそぐわないかもしれない。
しかし。彼女たちは、アイドルとは思えないほどのネガティブさを抱えこみ、迫り来る圧倒的な試練の数々に、ボロボロになりながら挑み続けた。笑顔の影に、言葉にし切れない絶望を抱えているのだ。
学校でいじめられ、居場所を求めて逃げるようにして乃木坂46に入った者。極度の人見知りのため、アイドルの活動以前に他人に馴染めずに苦しんだ者。オーディションに合格しながら学校の事情で活動できず隔たりと苦悩を感じ続けた者。