台所から「やかん」が消える? 家庭にあった原風景

変わるキッチン(第18回)~沸かす

2015.11.27(Fri)澁川 祐子

 1939(昭和14)年12月6日付の朝日新聞朝刊には、「お湯沸しの科学」との見出しでアルミ、銅、瀬戸引きの3種のやかんを比較している。瀬戸引きとは、鉄製の器具の表面を琺瑯(ほうろう)質で覆った琺瑯引きのことで、見た目が瀬戸ものに似ていることからそう呼ばれた。

 記事ではまず、沸くまでには<薬鑵より鍋が早い>と、身も蓋もないことを言っているが、あとから3種をくらべて瀬戸引きが一番効率よく、次が銅、アルミが最後との結論を出している。

 さらにその理由として、瀬戸引きがいちばんなのは、底が平らになっているからだと述べている。熱源が炉や七輪だった時代は、丸い形のほうが熱のまわりは早い。だが、ガスや電気のコンロに変わると、より平らなほうが熱を受けやすくなるのだ。

 それからさらに42年が経った1981(昭和56)年の『暮しの手帖』2月号を見ると、「ヤカン23種をテストする」と題した特集でアルミ、ステンレス、琺瑯の各種やかんが並んでいる。その写真を見ると、底が丸いのは3つだけ。ほかは基本的に底が平らで、注ぎ口や取っ手が直線的なもの、注ぎ口に蓋のついた笛吹きタイプのものなど、いろいろなものがある。

 沸かす時間や取っ手の持ちやすさ、注ぎやすさなど、さまざまな角度からテストして、最終的にはアルミ製2種が高い評価を受けている。また、ステンレス製も重いのが難点としながらも、1種だけ薦められている。先の新聞記事で一番だった琺瑯製は、空焚きしたときに剥がれやすいという扱いにくさがネックになったようで、評価は低かった。

 しかし、現在の主流はステンレス製だ。理由を推測するに、錆びにくく、扱いやすいからだろう。銅の薬鑵から振り返ればずいぶんと紆余曲折を経て、現在に至っているのである。

やかんの座、危うし

 やかんが沸かす道具の筆頭であることにはいまも間違いがないだろう。だが、昨今はその存在を脅かす道具が出てきている。

 その先陣が、電気ジャーポットだ。電気で湯を沸かす道具、いわゆる電気ケトルは、欧米では古くからある。古いホテルなどでいまでも電熱コイルが入ったポットを見かけることがあるが、要するにあれである。

 日本ではやかんで沸かした湯を保温性の高いポットに入れるのが一般的で、あまり電気ケトルは普及してこなかった。だが日立家電販売は1979年、保温ポットに湯が沸く機能を加えた「わくポット」を発売。保温機能と湯沸し機能が合体させたことで、1日中いつでも熱い湯を使えるとあって評判になった。

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る