日本人が少なくとも7世紀から接してきた「味噌」は、体に良いのか悪いのか。そんな視点から、前後篇で味噌の歴史と科学を追っている。

前篇では、味噌の歴史を見てきた。「医者に金を払うよりも、味噌屋に払え」といったことわざや、薬学の知識をまとめた本草書の「一日もなくてはならない」といった記述から、日本人がいかに味噌に健康を期待してきたかがうかがえる。

 ところが現代になり、日本人の“味噌観”は大きく変わってしまった。

「塩分が多い。塩分は高血圧を招く。だから味噌の摂り過ぎはよくない」といった考えが根づくようになり、味噌が避けられる傾向がある。食の西洋化など他の要因もあるだろうが、日本人1人あたりの味噌消費量は1970年代から半減しているのだ。

 しかし、もし味噌が体に悪いのだとすれば、どうしてこれほど長らく日本人は味噌を愛してきたのだろうか。多くのことわざや本草書の記述は、単なる誤解だったのだろうか。

 そこで今回の後篇では、「味噌は体に良いのか悪いのか」という疑問に、現代の眼差しからの答えを求めることにした。食塩と高血圧の関係性などを研究する、共立女子大学家政学部教授の上原誉志夫氏を訪れた。

 上原氏はここ数年、「味噌汁の摂取が血管状態や血圧にどう影響するのか」について、注目の研究成果を上げ続けている。

血圧が高くなるデータはあるのか?

 日本人の1日の塩分摂取量が10グラム以上という中で、2004年に日本高血圧学会は塩分摂取量の推奨値を「1日6グラム未満」とした。

「長らく、私は食塩が体に悪いという視点で研究してきました。味噌汁にもたしかに食塩が入っています。けれども、血圧が高くなるというデータはないのではないかと目を付けて、実証しようとしたのです」