法制度が体系化されていなければ、投資やビジネスの促進にとって致命的な問題となりかねない。
「2015年までに年7.2%の経済成長率を実現する」との目標を掲げ、外国投資を積極的に受け入れている現政権としてもこうした状況を看過できるはずはなく、国を挙げて法制度の近代化に着手することを決断した。
2013年に来日した連邦法務長官府(UAGO)のトゥン・シン長官の「今後、300以上の法令を可及的速やかに改正する必要がある」という発言にも、彼らの強い危機感が透けて見える。
他方、改正を急ぐあまり各方面に支援を呼び掛けたことによる弊害も出始めている。
例えば現在、会社法の整備はアジア開発銀行(ADB)が、また投資法の整備は国際金融公社(IFC)がそれぞれ協力するなど、さまざまなドナーが支援を進めているが、その一方で、利害関係者間から十分に時間をかけて意見聴取が行われないままドナーごとに起草を進めている結果、ミャンマーの社会・経済情勢や法司法制度に必ずしもそぐわない法律が作られようとしているのだ。
前近代的な法体系を今日の文脈に合うようアップデートしなければならないが、時間はかけられない。そんな同国のジレンマに一石を投じる研修が、この夏、東京で開かれた。
気付きを促す
その日、東京・桜田門にある法務省赤れんが棟の一室は、静ひつな雰囲気に包まれていた。11人のミャンマー人たちが、英語とミャンマー語の条文が並べて映し出された前方のスクリーンを真剣な面持ちで見つめている。
「A会社の取締役が、自身が代表を兼任するB会社と取引を行う場合、この取締役は、取締役会と株主総会、どちらの承認を得ればいいでしょうか。また、A会社が損害を被った場合、株主は取締役に何らかの救済を求められるでしょうか」
名古屋大学の松中学准教授が教壇からそう問い掛けると、3~4人のグループごとに小声で相談が始まった。皆が見ているのは、ADBの支援を受けて改正が進められている新しい会社法の草案だ。
さらに松中准教授は事例の条件を少しずつ変えては、法案の中からそれに関連する条文を1つずつスクリーンに映し出し、「この書き方でいいでしょうか」「違う解釈が成立する余地はないでしょうか」と皆に尋ね、議論を促す。
彼らは、今回、会社法を所管している国家計画経済開発省の投資企業管理局(DICA)と、それを審査する連邦法務長官府(UAGO)、そして将来的にこの会社法を適用し裁判実務を行うことになる裁判所の職員たちだ。