間もなくこの草案の審査が開始されるのに先駆けて、起草、審査、適用を担当する三機関の職員がこうして顔を合わせ、法案を理解する場を共有することで共通理解を育むと同時に、連邦法務長官府(UAGO)の法案審査能力の底上げを図りたいというのが、この研修の狙いだ。

 国際協力機構(JICA)産業開発・公共政策部の丸山瞳さんは「法案審査の視点が効率化すれば、ミャンマー全体の立法プロセスが迅速化されるはず」と期待を寄せる。

 この研修は、連邦法務長官府(UAGO)と連邦最高裁判所の組織と人材を強化することを目指し、2013年11月よりJICAが実施している法整備支援プロジェクトの一環として行われたもので、今回で4回目。

 これまで、両国の司法制度の比較や、民事・刑事手続きのフローチャート作成、立法過程の改善など、毎回テーマを決めて東京あるいは大阪で開かれてきたが、今回は間もなく審査が開始される会社法に焦点が当てられたというわけだ。

 しかし、そもそも法律は国家の主権に直接関わるものであり、対応には十分な配慮が必要だ。だからこそ、講師陣は研修中、法案の条文を一つひとつ取り上げ、書き方についてコメントや指摘はしても、条文自体を書き換えることは決してしない。

 研修プログラムを企画した法務省法務総合研究所の国際協力部で教官を務める野瀬憲範検事は、「われわれとしては、あくまで問題点を指摘し、修正の方向性について気付きを促すというスタンス」だと強調する。

 会社法の草案を作るだけでなく、それがきちんと機能する基盤を作るためには、各ドナーの支援によって作成される各法案を唯々諾々とそのまま受け入れるのではなく、ミャンマー社会の文脈に合うものであるかどうかきちんと中身を理解・検討した上で、司法制度全体を俯瞰し体系的に起草・審査・運用していける人材を育成することが不可欠であるためだ。

 現地で日々、プロジェクトの専門家として連邦法務長官府(UAGO)の職員たちと活動している小松健太専門家にとっても、思いは同じだ。

 小松さんは「会社法とは、それを支える土台があって初めて機能する法律」だと指摘した上で、「今回の研修では、ミャンマーの現状に合わせて会社法を整備することに加え、民法など基本的な法令や、裁判所による公平な紛争解決など、法司法制度の基盤を確立することの重要性も気付いてほしい」と考えている。