前回は、エコカー補助金という消費促進政策が、エコカー減税との組み合わせの結果、実情としてどれほど「不公平」なものになっていたかについて、簡単な分析を試みた。
それに続いて今回と次回は、「エコカー」という極めて曖昧な言葉でひとくくりにされているクルマの「普及を促進」しようとするこの種の政策が、現実のクルマ社会にどれほどの進歩をもたらしているのか、あるいは、いないのかを、見渡してみることにしよう。
そもそも「エコカー」とは何か?
新車購入補助金と減税の対象になるのは、特定の走行モードを台上試験して計測される排出ガスの量と、その結果から計算される燃料消費量(つまり、燃料の消費を直接測っているわけではない)が、ある基準よりも少ないクルマ。これを「環境性能に優れた自動車」としている。
言い換えれば、1970年代に問題となった「大気汚染」と、90年代以降の「地球温暖化問題」の中の「CO2削減」という2つのテーマに関わる試験結果だけをもって、「環境性能」としているわけだ。メディアを含めた一般社会の認識はもっと曖昧で、「燃費が良さそうなクルマ」という程度にとどまっている。
「リサイクル」も「エコロジー」の重要テーマのはずだが
しかし、原則論から言えば、「自動車の環境影響」は「素材」に始まり「造り」「使い」「廃棄・再生する」全てのプロセスにおいて発生しているものである。
その全体を評価する概念、方法論としては「ライフサイクルアセスメント(LCA)」がある。けれども、例えばCO2のような1つの要素に限って評価するとしても、膨大な数字を操り、しかしその意味は専門家以外には理解しにくい、というものになってしまっている。
でも、もっと単純に考え、「環境に優しいクルマ」を造ること、選ぶことはいくらでもできる。
例えば日本ではいつのまにか、「自動車のリサイクル」については自動車リサイクル法に適合していれば良い、ということになってしまっている。しかし、その内容は、「解体の結果、最後に残って埋め立てなど廃棄処分されるシュレッダーダストが、元の車両重量のおおよそ5%以下であればよい」とするものであり、自動車を構成する要素や素材全体を回収、再生・再利用することを目指す、ごく始まりのステップでしかない。欧州で「工業製品のリサイクル」が始まった80年代初めの概念とルールをそのまま日本に移植しただけのもんで、それで「こと足れり」としてしまっているのだ。
それに対して欧州では「車両重量の85%までを素材レベルにまで再生する」という新しい指針が提示されているなど、「どこまでできるかを考え、そのレベルを引き上げる」というテーマに継続的に取り組んでいる。残念ながら、日本ではそうした動きは皆無である。
新車購入時や車検時に徴収される「自動車リサイクル料金」の内容と運用なども含めて、日本の自動車の、そして工業製品の回収・再利用・再生プロセスは、工業先進国としては何とも「お寒い」状況にある。これについては機会を改めて検討することにしたい。
いずれにしても、本当は「エコカー」という言葉は、ただ「走行に伴う大気排出物が少ない」というだけではなく、素材選びから製造、そして解体・再生までを俯瞰して「環境影響」を考えた工業製品、という意味で使うべきものである。