「悠々として急げ」

 入学式を終えたある日の教室。まだ15歳の私たちは、希望に胸を膨らませ、少し浮かれていました。そんな中、大きな声で話し始めるまだ若い担任のI先生。

 「お前らの世代は、人数が多い。大学入試は大変だ。そして、大学を卒業する頃には、この好景気も終わっているはず。就職でも苦労するだろう。お前らは、恵まれない世代だ。気合を入れて、明日から勉強やクラブ活動に励め!」

 確かに、私たちは第2次ベビーブーム世代。時は、バブル経済まっただ中。話し終えた先生が黒板に書き始めた座右の銘が、冒頭の言葉でした。

きっと、深い意図が隠されていたはずですが、先の話の衝撃が大きくてよく覚えていません・・・。そして、私が開高健を知るきっかけを与えてくれたのも、I先生でした。

サントリーを舞台にした2人の絆

 『佐治敬三と開高健 最強のふたり』(北康利著、講談社)。

『佐治敬三と開高健 最強のふたり』(北康利著、講談社、1800円、税別)

 「やってみなはれ!」を合い言葉に、新規事業に積極果敢に挑戦し続け、サントリーを世界的企業に育て上げた、創業者・鳥井信治郎の次男、佐治敬三。そのサントリーの宣伝部に籍を置きながら、作家としても活躍し、芥川賞を受賞した開高健。

 本書はふたりの友情の物語です。さらに、それぞれの評伝でもあり、サントリーを通しての日本のウィスキーやビールの歴史でもある、贅沢な内容になっています。

 いろいろと盛り込んでいながら、散漫な印象は感じません。敗戦から高度経済成長期にかけての当時の背景がしっかりと描かれているからでしょう。物語が引き締まっています。