そのまま数分経ったのか、それともほんの数十秒の話か、ふと顔を上げると、橋梁の健全度診断を担当するオリエンタルコンサルタンツグローバルの河合伸由さんが数メートル先から心配そうにこちらを振り返っている。

 ふと、横から手が差し伸べられた。先に渡り切っていたミャンマー国鉄の職員が戻ってきてくれたのだ。

 彼がにこっと微笑み手をしっかり握ってくれた途端、全身からほっと力が抜け、再び足を踏み出すことに成功した私は、そのまま男性職員と一緒に橋の中央部分に設置された広めの足場にたどり着き、そこで一息ついた後、なんとか向こう岸に渡り切ることができた。

 ここは、ヤンゴン中央駅から車を40分ほど北東方向に走らせたピンロン地区に架かる鉄橋の上。水面からの高さは10メートルぐらいか。雨期明けを間近に控えたこの時期は、川の水位も最高時に比べるとだいぶ下がっているという。

 ヤンゴンから首都ネピドーを通り、国土のほぼ中心に位置する古都マンダレーへとつなぐ南北約600kmの線路上には、鉄道橋梁が長短合わせて400橋以上架かっているが、その中で最も長い「No.13橋梁」と呼ばれるこのトラス橋は、英国支配下の1920年に建設された。

 決して等間隔に並んでいるとは言えない枕木は、角が削れて細くなっているものもあれば、苔が生えて滑りやすくなっているものもある。

 ふと、隣の国鉄職員が立ち止まり、橋の上部工に空いた穴を指差した。英国との独立戦争の際の銃痕だという。一瞬、ここが川の上だということを忘れ、この橋が見てきた約100年の歴史に思いを馳せた。

補修か、架け替えか

川の上だと感じさせないくらいに軽々と移動し作業する技術者たち

 橋の対岸では、ヘルメット姿の男性が4人、地上と何ら変わらぬ風に軽やかに枕木の上を歩き回っては、きびきびと動いていた。

 両手で作業できるよう、記録用のシートも、筆記用具も、測量用の道具も、すべて腰から金具でぶら下げている。

 「降ります」「了解、滑落に気を付けて」というやり取りが聞こえたかと思うと、1人の男性が幅10センチほどのリング状のひもの片方を枕木にくくりつけ、ぶら下がった輪っか部分に足を掛けて、あっという間にするすると降りていった。