いまや自動車産業は日本のお家芸とも言えるが、その中でも世界市場の約半分を押さえている企業があるのをご存じだろうか。静岡県富士市に本社があるジヤトコである。日産自動車が75%、三菱自動車が15%、スズキが10%出資する自動変速機メーカーだ。

 自動変速機とは、昔からの聞き慣れた言葉を使えば「オートマ」である。自動車産業の中心が欧州から米国へ移ったとき、欧州のように山道のドライブを楽しむというより、いかに楽にクルマを走らせるかという目的で開発された。

 現在は、手動と自動の両方の機能を兼ね備えたものが出てきたため、オートマとはあまり呼ばれず、クラッチペダルのない「2ペダルTM(トランスミッション)」という呼称が一般的になっているという。

米国のGMが開発したときはローとハイの2速のみ

日本で実用化が始まった頃の3速AT

 その2ペダルTMは、米ゼネラル・モーターズ(GM)が世界で初めて実用化に成功したときにはわずか2速だったが、それが3速になり、オーバードライブのついた4速になり、そしてそこから一気に加速して5速、6速、7速、8速・・・と多段化が進んできた。

 運転する速度に合わせてギアが自動的に切り替えられ、エンジンのパワーを最も効率的に車輪に伝えることができる。最近では、ドライバーの意思もくみ取ってギアを換えるクルマもある。

 さらに1990年代に入るとシフトチェンジせずに滑らかに変速できる無段変速機(CVT)の実用化が始まり、いまや激しい燃費競争を繰り広げる小型車や軽自動車になくてはならない存在となった。

 このCVTでジヤトコは世界市場の約半分を握っているのだ。自動車産業におけるエネルギー低消費化の最前線企業と言えるだろう。今や燃費はマニュアル車を超えるそうだ。

 自動車は私たちを好きなときに好きなところへ運んでくれる非常に便利な乗り物だが、ガソリンや軽油を使うという、地球環境にとっては好ましくない存在でもある。そのため、石油危機以後は世界のメーカーが燃費効率の高いクルマの開発にしのぎを削り、近年はハイブリッド車や電気自動車、燃料電池車などの開発に火花を散らしている。

 いかに化石燃料の使用を抑えるかは、石油ショック後の自動車産業が抱える最大のテーマになったと言える。

 そして、現在は電気自動車や燃料電池車はその最先端技術として注目を集めている。しかし、実は、地味なように見えてCVTなどの自動変速機も著しく燃費を改善してきたという意味では、省エネで燃料電池車などに決して引けを取らない横綱級の役割を演じてきた。