そもそも、前段の「物価目標」については、法改正までする必要があるのか疑問だが、イングランド銀行(英中央銀行)が目標を設定しており、これを参考にしているのかもしれない。
さらに解せないのは「目標達成のための具体的手段は日銀が独立して定める」としながらも、後段で「政府は中小企業向けローン債権の買い取りを(日銀に)要請できるようにする」と特定の手段を割り当てていることだ。舌の根も乾かぬうちにというか・・・「日銀の独立」をうたった次の項目でそれを否定する文章構成の破綻に気付かなかったのだろうか?
不良債権を政府に飛ばせる、銀行大喜びのスキーム

本当に問題なのは、その中身だ。貸出債権の買い取りを実務的に考えてみたい。通常の金融取引であるなら、日銀は妥当な買い取り価格を導き出すため、中味を精査することになる。中小企業向け融資は小口のため、20兆円ともなると、膨大な件数になる。仮に、1件当たりの貸出額が1億円と想定すると、20万件に上る。10億円でも2万件だ。いくら日銀マンの実務能力が高いとはいえ、万単位をこなすのは無理な話だ。
それ故なのか、みんなの党は、「ローン債権に政府保証を付与する」としている。買い取った債権が焦げ付いても政府が損失補填してくれるなら、日銀は精査などせず、なんでもかんでも簿価で買い取ればいいので、膨大な事務負担を心配する必要はない。
一方の銀行側も簿価の買い取りは大歓迎だ。日銀の精査で不良債権と見なされると、引き当ての積み増しを余儀なくされるからだ。そもそも、日銀が精査しないなら、回収が見込めない不良化した貸し出しから簿価で売ればいいのだ。
つまり、このスキームは損失を政府に飛ばす20兆円の不良債権買い取りと化す公算が大きい。金融システムへの財政バラマキというわけだ。
みんなの党は成長戦略の冒頭で、「経済の成長は、バラマキというカンフル注射でもたらされるのではない。企業人や地域の現場の人々のチャレンジ精神と活力によってこそもたらされる」と、その精神を謳っている。
銀行部門へのバラマキは企業審査を甘くする。金融システムの企業選別の努力は損なわれ、不健全企業が温存されよう。健全な企業は成長が阻害され、企業のチャレンジ精神は減退する。貸出債権の買い取りには、そんな副作用が潜んでいるのだ。