みんなの党の渡辺喜美代表は2010年8月10日、自民党の中川秀直元幹事長らと連名で日銀の白川方明総裁に対し、金融政策運営に関する公開討論会の開催要望書を送った。
みんなの党は2010年7月の参院選で、日銀法を改正し物価目標(=インフレターゲット)を導入することを選挙公約に掲げたほどだ。同日の金融政策決定会合で、日銀が政策金利を0.1%に据え置いたことが腹に据えかねたのだろう。要望書では「わが国経済の置かれた環境を一顧だにしない無策」と痛烈に批判。「消費者物価上昇率2%程度の物価安定目標の設定と、それを達成するための20兆円規模の量的緩和が必要」と主張している。
2010年7月23日付「ここがヘンだよ『みんなの党』 その1」では、同党の成長戦略が民主や自民のバラマキ経済政策と大差ないことを示した。今回は、同党が主張するインフレターゲットを導入するためには、日銀総裁に、通貨価値を毀損させることをためらわない無節操な人材を登用する必用があることを説明しよう。
現在、政界で日銀法を改正して物価目標を導入することを提唱しているのは「みんなの党」と「民主党のデフレ脱却議員連盟」だ。
残念ながら、どちらの案を実行したところで、「デフレ脱却が確実」とは考えづらい。なぜなせば、目標を達成できない場合の罰則がないためだ。その意味では、意外と日銀思いの改革案なのかもしれない。
最初に金融政策に「物価目標」を導入したのはイングランド銀行(英中銀)だった。1990年代の前半に、高いインフレ率を抑えるために導入した仕組みだ。
日本ではデフレ傾向が鮮明になった10年ほど前、「物価を押し上げるのにも使える」という逆転の発想で、インフレターゲット論がさかんに取り上げられるようになった。その後、不況のたびに話題に上るのはご案内の通りだ。
一般的に、金融政策によってマイナスに落ち込んだ物価を押し上げるのは難しい。物価上昇に対しては金利はいくらでも引き上げられるが、金利がゼロになってしまうと、有効な緩和策が見当たらないためだ。
もちろん、インフレターゲットを提唱する人々は、「それでも物価押し上げは可能」と考えた上で日銀法改正を提案しているのだろうから、その立場で主張の中身を検証してみよう。
仮に目標物価を2%、金融政策の効果が表れるまでにタイムラグがあることを考慮して達成時期は2年後としよう。インフレターゲット派は、当然、達成可能と考えた上で目標を設定しているわけだから、日銀がこの目標を達成できなかった場合は、(1)無能である 又は (2)わざと外した──のいずれかだ。