
ほかには、「短い」という意味で、苺や生クリームの足が早い(長持ちしない)から、もしくは短時間でつくれるから、という説などがある。
前述の『西洋菓子彷徨始末』では、「サクサク」説を支持しながら、どこかの時点でスポンジと生クリームとフルーツさえあれば、あっという間に完成する「ショートタイム」にできるお菓子という意味にすり替わっていったのではないかと推察している。
では、いったいいつ頃から、日本ではショートケーキの名が登場したのだろうか。
明治時代から大正、昭和時代のはじめにかけての料理書や新聞にあたってみたところ、初出は1889(明治22)年の『和洋菓子製法獨案内』(岡本純著、魁真楼)までさかのぼることができた。
同書に紹介されている「Derby short cakes(デルビー ショルト ケーキ)」というお菓子は、牛乳、小麦粉、卵、砂糖を混ぜたものを型で抜き、砂糖をふりかけて焼いたもの。つまり、このときのショートケーキはスポンジではなく、クッキー状のものであり、「short」は「サクサクした」という意味だったのだ。
次にショートケーキの名を見つけたのは、少し間が空いて1905(明治38)年刊の『欧米料理法全書』(高野新太郎著、吉田富次郎)である。
同書には、「ストロベリー、ショートケーキ」が2種類、さらに「ストロベリー、リッチ、ショート、ケーキ」「フルーツ、ショート、ケーキ」の計4種類のショートケーキの作り方が載っている。いずれも苺もしくはフルーツを飾り、クリームソースをかけたものだが、注目すべき点は、「ストロベリー、ショートケーキ」では卵を使っていないのに対し、「ストロベリー、リッチ、ショート、ケーキ」と「フルーツ、ショート、ケーキ」には、卵を「よく打撹(ビート)」するようにと書いてあるところだ。
ここで少しお菓子の豆知識だが、クッキーやビスケットとスポンジケーキとの違いは、材料の配合の違いを除けば、大きくは卵を別で泡立てるかどうかだ。クッキーの場合は、先の「ストロベリー、ショートケーキ」のように卵を使わないで作ることもある。