小さい頃は大好きなお弁当のおかずとして、大人になってからは居酒屋でつまみの定番として、からあげにはさんざんお世話になってきたという印象がある。

 その理由を改めて考えてみると、からあげは、味の大きなアタリハズレ、特にハズレがあまりないからではないかと思う。いまいちなものはあるにしても、極端に不味いからあげというものに出くわした記憶がない。だから、何かつまもうかというときに「からあげでも」となるのだろう。

鶏肉のからあげ。「からあげ定食」として定食屋のメニューにも並ぶ。

 だが、ちょっと考えてみれば不思議である。「からあげ」とひと口にいえども、衣も味つけも多種多様だ。小麦粉を薄くまぶしてカラッと揚げたものから、サクサクとした片栗粉の衣をまとったもの、さらに手羽先など、衣なしの素揚げだけのものもある。味つけもあっさりとした塩味から、醤油やにんにくにつけこんだ濃い味まで。それらを全部「からあげ」と称して、多少の違いは気にしていない。

 しかしながら本当のところ、からあげとはどういう料理を指すのか。例えば「竜田揚げ」とはどう違うのか。「空揚げ」と書いたり、「唐揚げ」と書いたりするが、その違いに何か意味はあるのか。「唐揚げ」とも書くからには、中華料理が起源なのか。からげについて改めて考えてみると、疑問だらけなことに気づいた。

18世紀の「唐揚」と現代の「からあげ」、関係は・・・

 そもそもからあげの定義とは何か。それを調べるため、料理用語辞典を何冊かあたってみた。それらの記述をざっくりまとめると、何もつけずに油で揚げた素揚げ、もしくは小麦粉や片栗粉を軽くまぶして揚げたものとされている。

 揚げることで、材料に火を通しつつ、表面はカリッと、なかは水分を閉じ込めてジューシーに仕上げるのが目的だ。ちなみに竜田揚げは、醤油などで下味をつけて、片栗粉をまぶしたものに限ってそう呼ばれる。

 こうした「揚げる」という調理法が日本で用いられるようになるのは、鎌倉時代に伝わった精進料理以降のことで、広く一般に普及するのは江戸時代になってからだ。『日本料理事物起源』(川上行蔵、小出昌洋編、岩波書店、2006年)には、江戸時代の揚げものについて以下のように記されている。

 <江戸時代に「素揚げ」「空揚げ」ということばはなかったが、現実には両方ともにあった。「油揚」といえば素揚げで、空揚げは「衣かけ」と呼んだ例もある。現在の衣揚げに相当する揚物もあったが、衣揚げということばは文政以後、まれに使用される程度で、広く流通したことばではなかったようである>