12月ともなると、街のあちこちでクリスマスケーキのチラシを見かけるようになる。最近は、ブッシュ・ド・ノエル(薪の形をしたチョコレートのロールケーキ)をはじめ、色とりどりに飾りつけられたケーキがたくさんある。そのどれもがおいしそうに見えるのだが、クリスマスケーキをいざ買う段になると、なぜかいつも定番のショートケーキに手が伸びてしまう。
真っ白の生クリームに、あざやかな赤い苺。そこにざっくりとフォークを突き刺して、ほおばれば、ふんわりとしたスポンジになめらかな生クリームが溶け、苺のフレッシュな甘酸っぱさがきゅっと広がる。シンプルにして完璧な三位一体の組み合わせ。何度食べてもおいしい、飽きのこない味。それがあらかじめ分かっているだけに、ついついショートケーキに回帰したくなるのだ。
それほど好きなショートケーキだが、その来歴についてはこれまでほとんど知らなかった。この連載を始めるまでは、ショートケーキはフランスかどこかのお菓子だろうと漠然と考えていたのだ。
だが、いろいろな文献を見ているなかで、いくつか「ショートケーキは日本生まれ」という記述に遭遇した。たとえば、洋菓子店「ブールミッシュ」の創業者である吉田菊次郎は、著書『西洋菓子彷徨始末―洋菓子の日本史』(朝文社、1994年)のなかで、「ショートケーキの不思議」と題して、こう述べている。
<この定番商品、これだけ津々浦々でなじまれているにもかかわらず、ふしぎなことに国籍不明。欧米各国のどこにも見当たらないのです。察するにこれは明らかに我が国の生んだ固有の洋菓子のようであります。>
日本においては、ケーキの代表格ともいうべきショートケーキ。それがいつ頃、どのように生まれたのか。今回は、クリスマスを前にショートケーキの謎に迫ってみよう。
明治22年登場のショートケーキは“サクサクした”ケーキ
ショートケーキの語源には、いくつかの説がある。もっとも有力なのは、イギリスやアメリカのショートケーキをヒントにしてつくられたという説だ。「short」は「サクサクした」という意味で、クッキーやビスケットのような生地で砂糖をふった苺や、生クリームを挟んだもの。それが、いつしかスポンジに入れ替わったというものだ。