こんな論調も目にしたこともある。
「当初のデモは民衆の行動だったが、一部過激分子が武装路線に転じたことで、反体制派は民衆の支持を失った」
いったいどこからの情報か、不思議でならない。前述したように、反体制派の一部に問題があるのは事実だが、反政府軍の主流は現在も地元の有志軍であり、しかも志願兵は今も増え続けている。
反体制派の一部には、確かに捕虜の即時処刑を行った部隊もあるが、それと政府軍が正規の作戦として市街地や住宅地を空爆するのとは、少なくとも戦場では同列ではない。住民への空爆など言語道断で、弾圧される側のシリア人でアサド政権に怒りを覚えていない人などいないだろう。アサド政権打倒は、大多数のシリア人の願いなのだ。
現場取材できずに中立を保つ日本メディア
日本では現在、シリア問題に関する言説が、一部例外はあるものの、ほぼ以下のような構図になっている。
・現地取材経験者や現地に政府機関系以外の人脈のある人 → 反アサド
・アルジャジーラや欧米主要メディアを主な情報源とする人 → 反アサド(これらの国際メディアは、結局はいちばん現場を取材しており、現地の声も拾っている)
・シリア国営通信、ロシアのメディア、イラン・ラジオ、アブハジアのテレビなどを主な情報源とする人 → 親アサド
・上記の親アサド系メディア情報をソースとして書かれたネット情報を、主な情報源とする人 → 親アサド
・自分たちが現地で直接取材していないものについては両論併記が原則の日本のマスメディア → 中立
こうした日本でのシリア報道のあり方は、シリア人からみれば実に不思議なものに見えるだろう。“現地の声”と“親アサド系メディアのプロパガンダ”がほぼ同格に両論併記されているのだ。
前述したように、筆者の情報源は一般的なシリア人住民だが、個人的人脈であるから、むろん限られたサンプルでしかない。しかし、それは紛れもなく、シリア国内から届けられる現地の声だ。
筆者の視点が偏っているとの印象を持つ人も当然いるだろうが、ならば他にどういった現地の声が、どういった立場の人々から届いているのかを、筆者自身もぜひ知りたいと思う。
情報源がシリア国営通信や『ロシア・トゥディ』ではお話にならないが。