その際に想定される国際的な非難については、要するに「タカをくくっていた」のだろう。これまで2年半もの間、アサド政権がどれほど非道な行いを重ねても、さらには小規模な化学兵器使用を重ねても、結局は盟友ロシアが国連安保理をブロックしてくれたため、国際社会から具体的な圧力を一切受けずにきた。今回もシラを切っていれば、どうせ国際社会は何もできないと考えたのだろう。国際社会がこれほど反応し、アメリカが軍事介入まで準備したのは、アサド政権にとっては誤算だったはずだ。

「反政府軍はテロリスト」というプロパガンダ

 日本で自作自演説が根強いのは、1つには、日本ではなぜか「反体制派は外国に扇動されたテロリスト」という説が出回っていることが背景にあるようだ。これはアサド政権がしきりに主張しているプロパガンダそのものだが、現実は違う。

 シリアでは2011年3月に反体制デモが始まったが、徹底した弾圧に抗議して、自警団的に反政府軍が活動を開始したのが同年秋頃。以降、基本的には政府軍と地元有志の反政府軍の戦いというかたちで内戦が行われている。

 ところが、翌2012年夏頃から、反体制派の中に過激なイスラム原理主義を主張するグループが台頭。その中に国外からの義勇兵も多く参入するようになった。また、同じ頃には、特に北部で、反政府軍の中にギャング化した一部の部隊が混じり込むようになった。

 それらは国際メディアにも大きく報じられたが、それをもって「反政府軍は外国に扇動されたテロリスト」とのキャンペーンが、シリア政府系メディアによって大々的に行われた。しかし、実際にシリア国内から聞こえてくる話では、そうした過激派の勢力が強いのは北部や東部を中心とする一部であって、現在も全国レベルでみれば、反政府軍の主力は上記したような自警団的な有志軍である。“一部”を“全体”に誇張する単純な情報操作だ。

 これは単に筆者の個人的な人脈からの情報ということではなく、現地を取材した内外のジャーナリストの多くが指摘することでもある。親アサドの論調では、反政府軍にはカタールやサウジアラビアから大量の武器が支給されていることになっているが、筆者の現地情報でも、他のジャーナリストたちの取材報告でも、そのような事実はない。

 確かにカタールやサウジからの武器支援はあり、最近はそれが徐々に増えてきてはいるが、悲しいほど小規模であり、一部の反政府軍部隊にしか届いていない。ほとんどの反政府軍は、政府軍拠点を攻略して鹵獲(ろかく)した武器で戦っている。そんなことは、現地から毎日大量に発信されているYouTube映像でも分かることなのだが、なぜか日本では「反政府軍=外国が支援するテロリスト」という政権側メディアによって創作された“物語”が、根強く流布している。