日本の外交・安全保障戦略は新たな段階に入った。その鍵を握るのが東南アジア諸国連合(ASEAN)だ。
安倍晋三新政権は、中国包囲網強化を念頭に、日本とASEANが従来の経済貿易面だけでなく、安全保障分野も含めた包括的な連携拡大を図り、アジア太平洋地域に重心を移す米国の外交軍事戦略(アジア回帰)を見据えながら、アジア外交と日米同盟を戦略的に連動させたいと目論む。
ASEAN諸国で高まる米国主導のTPPへの反発
24日からブルネイで交渉会合が開催されるTPP(環太平洋経済連携協定)への日本の実質的交渉参加は、正しくその戦略の延長戦上にある。
しかし、日本はそれに先立つ事前協議で、TPP参加の条件として米国、カナダ、オーストラリアから大幅な譲歩を突きつけられ、それを呑まざるを得なかった。
対米国では、日本の乗用車、トラックに課された関税撤廃を「TPP協定で認められる最長期間で」「米韓FTA(自由貿易協定)で韓国が供与された以下の条件で」と、参加への“踏み絵”を踏まされ、強烈な洗礼を受けた。
韓国は、すでに締結しているFTAは日本より少ないものの、米国やEUといった先進国とのFTAが発効されており、FTA比率(貿易総額におけるFTA締結国の占有率)は約36%(2010年)と、日本の約18%の2倍を占める日本の工業製品の最競合相手国の1つ。
昨今、韓国の米国やEUとのFTAで、日本の輸出工業品が関税面で不利になった結果、価格競争で一段と劣位に置かれている。その状況下で日本は同盟国からの手厳しい条件を呑まざる得なかったというわけだから、国益優先といっても、対米国のその戦術のあまりの未熟さには閉口する。
対オーストラリアでも、日豪の2国間EPA交渉中での「3年後の自動車関税撤廃」の方針を覆され、当面、5%の関税維持を要求された。
また、日本はTPP加盟国中の7カ国とすでに2国間のEPA(経済連携協定)を結んでいる点や、TPPの経済効果も「実質GDPが2.7兆円増」(10年間累計)とするものの、1年相当では対GDP比で1%の20分の1(内閣府試算)に過ぎず、懸案の農業問題もからんで、TPP参加への経済効果については、政府与党内でも議論の分かれるところだ。
TPPは痛みを伴う参加で、しかも、関税分野ではTPPの交渉テーブルではなく米国との2国間交渉の行方で決まる。
むしろ、交渉参加の意義は、強引な海洋覇権を進める中国リスクを抱えながら、確実な成長が見込まれ、日本企業の主戦場となるアジア地域内での安全保障戦略に鑑みての包括的な経済貿易ルール作りに参加するという点にある。
しかし、その表舞台となる肝心のASEAN諸国では、TPPへの懸念や批判が高まっている。
TPPが米国主導で、ASEANが目指す広域包括的FTAの重心が、「東アジア」から「アジア太平洋地域」に移動してしまい、TPPの実現によって経済連携の主導権を米国に奪われ、ASEANが「周辺化」するのでは、と警戒している。