7月に入った途端、夕方になると熱海市街のあちこちから太鼓や笛の音が聞こえてくる。町内ごとにちびっこたちが集まり、取り決めされている夜9時まで連日のようにお囃子の練習が続く。

 毎年7月14~16日に開催される来宮神社例大祭「熱海こがし祭り」は、花火大会と並ぶ熱海の大イベント。

店の前を通る山車。毎年、選抜された子だけが山車に乗ることができるということで、地元の子どもたちにとってもこの山車に乗るのは特別に嬉しく、晴れがましいことなのだそう(写真提供:筆者、以下同)

 海岸沿いの国道135号を一部通行止めにして開催される山車コンクールは、町内ごとに山車の飾り付けとお囃子、踊りなどのパフォーマンスを競い合う、このお祭りのメーンイベント。

 市内を練り歩いてきた30台もの山車が、続々と審査会場に集まってくる様子はまさに圧巻。観光客も地元の人々も、もみくちゃになって盛り上がる。

 2週間にわたる連日連夜の特訓はこの山車コンクールのため。ちびっこたちもたいへんだけれど、大人だって生半可な気持ちではできないこと。

 ふだんののんびりとした熱海の雰囲気からは想像もできないようなこのパッションはいったいどこから来るのか不思議でならない。

 お祭りのノリでみんながその気になりさえすれば、熱海の街ももっと活気が出るんじゃない? なんて思うのは野暮か。

熱海の夏、今と昔

お祭り期間中、町内ごとに設置される御神酒所。お揃いのはっぴ姿のおじちゃんたちがとても楽しげ。日中はいつも通り、のんびりとした雰囲気

 お祭りと前後して熱海サンビーチも海開きを迎え、熱海の夏も本番。

 夏休みに入ると観光客もぐんと増え、ホテルや旅館、飲食店、お土産屋さんはまさに書き入れどき。アルバイトやパートを募集する張り紙も目にするようになる。

 ただ、地元のおじちゃん、おばちゃんたちによると、夏の賑わいも、かつての熱海の勢いとは比べものにならないという。

 繁華街から少し外れたうちのお店の前も、夕方になると旅館に向かう芸者さんの姿があり、夜になればお宿の浴衣を着て街に繰り出すお客さんの下駄の音が途絶えることがなかったとか。