そのとき、カニの刺身の写真がどうやったらおいしく見えるかをカメラマンと研究しました。その中で、お客様はみんなカニみそが好きだから、お刺身とカニみそをワンカットの写真にしてみたらどうだろうというアイデアが出てきました。始めてみたらこの料理が非常に好評でして、みなさん、大変喜ばれます。
──あくまでもお客さんの視点に立っているということですね。
桂木 その通りです。地元ではこうやって食べるんですよ、じゃなくて、お客様がどうやって食べたいのか、どうやったらお客様が喜ぶのかを最優先してできた料理です。旅館にとって、地域のこだわりを貫き通すのか、それともお客様に合わせるのかは難しいところですよね。でも商売としてやっている以上、お客様に合わせるべきなんだろうなと思います。
また、のとやでは毎年、平均して約1億円をかけてリニューアルしています。これもお客様に喜んでもらうためのリニューアルです。
例えば2012年には、お食事どころをリニューアルしました。かつて日本の旅館と言えば、部屋で食事をするものでした。けれども最近のお客様はお食事どころを好む傾向があるようです。そこで、より快適に食事していただけるよう、お食事どころをリニューアルしました。特に今回は料理人が目の前で天麩羅を揚げて、焼き物を焼くというスタイルを取り込み、見せ方に工夫を凝らしました。
また客室では、2階建ての部屋をリニューアルしました。最近は3世代の旅行が増えています。お客様の声を聞くと、3世代で和気あいあいと過ごしたいという一方で、プライベートな時間も欲しいという方がいらっしゃいます。そうした声に応えて、2階にリビングと客室が2つ、1階に和室とベッドルーム、という造りの部屋を用意しました。これならば、お休みのときに3世代がそれぞれゆっくりと寛いでいただけます。
先祖のためではなく社員のため
──700年も続くと、自分の代で旅館をつぶしてはいけないというプレッシャーがあるのではないですか。
桂木 もちろんプレッシャーはありますが、もしも私の代で終わったら、それは時代が変わったということでしょうがないんだろうなと思います。長い歴史の中で、今ほど旅館にとって厳しい時代はありませんからね。だから、先祖のためにやらなきゃいけないという気持ちはそんなに強くないんです。
それよりも社員を守っていかなければならないという気持ちが強いですね。社員がずっと働いていける会社をつくっていかなきゃいけないと思います。いまいる社員のため、後世のために のとやの歴史を途絶えさせてはいけない。だからこそ、きちんとした経営をしていかなければならないと肝に銘じています。
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