──でも、その中で改革を続行された。経営を引き継いでどんな改革を行いましたか。

桂木 最大の改革は“脱旅行業者”を図ったことです。旅行業者(旅行会社)に頼るのではなく、自分たちで集客していくという形に変えました。

──それはなぜですか。

桂木 石川県は繊維どころなんですが、大手メーカーの下請けの繊維会社がバタバタとつぶれるのを見ていました。一方、丈夫な糸とか水をはじく生地とか、個性のある商品を開発したところは生き延びている。そういうのを見聞きして、旅館も自分たちで個性ある商品をつくって、自分たちで売っていかないとつぶれるなと感じました。

──旅館が旅行業者の下請けになっていたということですか。

桂木 その通りです。旅館に戻ってきたときに最初に驚いたのが、旅行業者に手数料を20%も取られていたことです。食品業界に比べると中間マージンが高すぎます。

 旅行業者が大量に送客してくれていたから、それでも利益が出ていたんですよね。けれども全体的なパイが小さくなると、そんな薄利多売の商売ではやっていけなくなることは明らかです。

──バブルの頃から「この状態はおかしい」と思っていた。

桂木 バブルの頃は旅行業者が、部屋の数をどんどん増やすよう全国の旅館に指導していました。そして部屋の数が多い旅館に優先的に団体客を送客していました。旅館は、旅行業者の言うことを聞いて、銀行からお金を借りてどんどん部屋の数を増やしました。バブルがずっと続くと思っていたからです。けれども結果的にバブルが崩壊し、多くの旅館が借金の返済に苦しむことになりました。

 当時、うちも少しは部屋を増やしましたけど、他の旅館ほどは増やしませんでした。旅行業者の言うことを聞いて下請けのままでいたら破綻するに違いないと考えていたからです。おかげでバブルが弾けても、うちは銀行への返済の負担が少なくて済みました。

──下請けを脱するために具体的に何を行いましたか。

桂木 まず、自分たちで集客することを始めました。

 冬になると、よく旅行業者が「北陸のカニを1泊1万円で食べ放題ツアー」というような企画を売っていますよね。でも、北陸のキラーコンテンツであるカニをそんなに安売りするのはどうなのかなと思うんですよ。冷凍ではない本物の地元のカニを出すと、どうやっても1泊2万円とか2万5000円以上の料金になります。旅行業者は1泊1万円の価格設定にして、団体客を大量に送りたい。でも、私たちが売りたい商品は違う。だったら自分たちで売っていこうということです。