そこで同センターでは、御三家をはじめとした東アジア諸国への高すぎる依存度を下げるためにも、ASEAN諸国の本格的なリサーチに着手したそうだ。すると、意外な結果が、次々と分かってきたのである。

タイ人にとって「焼肉」は日本食?

 タイを調査して分かったことは、日本の食文化が、生活の場にすっかり溶け込んでいたことだ。日本と同様に都市部ではコンビニエンスストアが展開し、レジの前にはおでんの姿もあった。牛丼や焼肉チェーンも軒を並べ、焼肉を韓国の文化ではなく、日本食だと認識している人も少なくなかったそうだ。

 「タイの人にとって日本は旅行先としてどう捉えられているのだろうか」。横山さんはそれを知るために、現地のフリーペーパーと提携し、座談会やフェイスブックを活用してアンケートを実施することにした。

 こうして行われた「タイ実証事業企画」によって見えてきたのは、彼らは必ずしも旧来型の日本観光だけに興味を持っていなかったことだ。むしろ、日本人が普段何を食べ、どんなことをして楽しんでいるかという「日本人の生活を体験すること」が、最大の関心事だったのである。

座談会なども行われた、「タイ実証事業企画」例
(データ元、リクルートライフスタイルじゃらんリサーチセンター提供)

 また、公衆浴場という文化がないタイ人には、源泉掛け流しの露天風呂はもちろん、人前で裸にならずに済む足湯や砂湯も魅力的に映った。神社仏閣巡りへの関心は薄かったが、雪や紅葉など四季を感じさせる日本の自然は、亜熱帯気候の地域に住む彼らにとって憧れだった。品種改良の進んだ日本のイチゴを食べたときには、「日本のイチゴってこんなにおいしいのに、本当に食べ放題なの?」と大喜びだった。

 「既存の手法ではタイの観光客を呼び込めない。現地のニーズを商品企画に反映させた方が、より効果的なのでは」。横山さんがそう気付くのに、あまり時間はかからなかった。

既存の「ゴールデンルート」巡りの問題点とは

 では、旅行商材における「既存の手法」とは、どのようなパッケージだったのだろう。

 横山さんによれば、ASEAN諸国をはじめ日本に旅行する人がまだそれほど多くない国の旅行者の大半は、団体ツアーで日本を訪れるという。ツアーの目玉になるのは、日本一の大都市「東京」、日本一の山「富士山」、日本一有名な古都「京都」などの分かりやすさである。これらを束ねたものが、いわゆる「ゴールデンルート」と呼ばれるツアーで、各国で販売されている。